9.妄想癖と思い込み
アンジュは昨日届いた手紙を手に、大きな溜息を零していた。
手紙の内容については、アンジュは読まなくても分かっていた。先日両親へと手紙を書いた際、高位貴族に求婚された旨を書いていたからだ。冗談を書くなと笑い飛ばされているか、困ったことになったと心配されているかのどちらかだろうと思っていた。
手紙を読み、後者だったことに、申し訳ない気持ちが込み上げる。何でも、ジェイク・オールディスと顔を合わせて話す機会があったらしく、かなり踏み込んだ話もしたと書かれていた。
「そういえば、家の牧場って、軍馬も育てていたっけ」
主に乳製品を加工して売っているのだが、他にも軍馬を軍に収めてもいる。そのお陰か、定期的に馬の獣医として、検診も行っていたので、それなりの稼ぎがあった。
割と裕福な家に育ったアンジュは、家庭教師を充てがわれ、看護師という優秀な者しかなることが出来ない職に就けている。
顔を合わせたのは、きっと獣医として軍の支部に行った時だろうと、アンジュは思った。これがとんでもない勘違いだと気づくのは、ずっと後のことだった。
「騎馬隊は、剣士部隊だったから、わざわざそこに顔を出したのかしら」
馬を卸しているのは、地方の、しかも牧場から一泊程度で帰って来れる地域だ。魔導部隊のジェイクが剣士部隊のいる軍支部へ行くのはとても不自然で、『わざわざ』行ったのだろうとアンジュは推測した。だが、ジェイクからは両親に会ったという話は聞いていない。まあ昨日は、エレナとハロルドのことがメインで、時間も限られていたからその話も出なかったのだろうとアンジュは一人納得した。
そしてここで昨日、思い至った事柄に、気持ちが沈んでいく。
ジェイクが彼らと同じ『兵士』だということに気づき、そして『あの日』のことも知っているのだろうということに、打ちひしがれた。
結局のところ、浮かれていたのだろうと、アンジュは自分の軽率さに嫌気がさす。
自分好みの容姿に、性格も温厚。果ては魔導部隊の隊長だ。そんな完璧な男に言い寄られて悪い気はしない。それどころか、女としての自尊心も擽られ、有頂天になっていた。
自分の命が他人の不幸の上に成り立っているというのにだ。
そこに前世の記憶まで思い出し、心がギシリと軋む。
もし仮に、ジェイクがただの下位貴族で『兵士』でなかったのならば、まだ望みはあったのかもしれない。だが現実というものは、そんなに甘いものではない。
「これが復讐だったら、見事に成功よ」
だがここで、アンジュはエレナのことをふと思い浮かべた。エレナも自分と同じように、過去のことで苦しんでいるのではないかと思ったのだ。しかも祖国での酷い仕打ちもある。
エレナも前に進むことに臆病になっている可能性があった。
「エレナ……あなたはちゃんと幸せになってよね」
だからアンジュは、エレナを応援しようと心に決める。
実際エレナは、元貴族なのだ。それも侯爵家という高位貴族だ。
恐らく、平民と結婚するよりも、元とはいえ貴族ならば、マナーや教養などが身についているのだから結婚相手としては申し分ないのだろう。だからハロルドが必死にエレナを手に入れたいと思っていたのかと、漸く合点がいった。一目惚れというのも、もちろん本当のことだろうが、元貴族という肩書も魅力的なのだろう。
そしてアンジュはエレナに妹がいることを思い出した。そのことに、ハッとする。
「まさか……」
オールディス家が総出でアンジュに接触してきたのは、エレナの妹を引っ張り出すためなのかもしれないと、アンジュは邪推した。
エレナでさえ、ハロルドに会わせることに難色を示しているのだ。その父親が、末娘にも接触させないように気をつけていることは容易に想像出来る。
そのエレナの妹の縁談に持ち込むために、先ずはエレナと仲の良い自分に接触してきたのではないかと、アンジュは思ったのだ。
オールディス家が本当に欲しいのは元貴族のお嬢様だ。
ジェイクがエレナの妹に会ったならば『一目惚れ』したと言って、アンジュを切ればいい。どちらも平民ではあるが、元貴族の方が優先されるのは当然のことだ。そして自分は貴族にはなりたくないと先に伝えている。だから自分を切ることには、躊躇しないだろう。自分の願いを叶える形になり、お互いに良かったと、円満に解決できるのだから。
逆に最初からこっちが乗り気だったとしても、結局元貴族の方が、と言われれば、何の力もない平民はただ泣き寝入りをするだけだ。然るべきところに訴えたところで、多額の慰謝料を充てがわれて終る話だろう。
そのことに思い至り、アンジュはこの手のこんだ策略に、呆れと共に安心した。
裏切られた前世の記憶と今回のことが重なり、哀しくなる気持ちもあるが、平民との婚姻などというよりも余程現実的だと、アンジュは納得する。
早速、朝食が終わったら、エレナと話をしようと、アンジュは拳を握った。
◇ ◇ ◇
「それで、エレナはプロポーズを受けたわけね」
こくりと頷いたエレナは、顔を赤らめながら俯いた。
アンジュの心配は全くの杞憂に終った。
いい方向に話が進み、アンジュも憂いが晴れて、上機嫌になる。
「あらやだ照れちゃって、可愛んだからもう!」
「もう、アンジュったら、からかわないでちょうだい!」
そんなエレナを見遣り、アンジュが悶える。
「とにかく良かったわ! これでエレナも貴族に戻れるし、好きな人と添い遂げられるしで、良いこと尽くめね!」
そしてアンジュも浮かれていた。それはひとえに、今回の結婚騒動の裏側を知ったからだった。
恐らく今回、オールディス家がアンジュに求めていたことは、エレナとハロルドとの橋渡しなのだろうと納得する。そしてエレナには一歳違いの妹がいる。その妹をジェイクに充てがうつもりなのだろうと、今朝方考えていた推測が信憑性を増す結果となり、肩の荷を下ろした。
最初からこの結婚騒動はおかしかったのだ。
先ず最初に声をかけてきた、魔導士の彼女。何故アンジュが婚活中だと知っていたのか。当然のことながら彼女とは初対面であり、話などしたこともない。だからこそ、オールディス家が関わっていたのだろうとアンジュは強く思った。恐らくはエレナと仲の良いアンジュのことを調べ、今回の計画を思いついたのだろうと。
魔導部隊の隊長であるジェイクの、ましてや貴族家からの圧力に、一介の部下が断れるはずもない。そして何より、あの日以来、彼女の姿を見ないのだ。しかも彼氏の魔導士も、早々に退院してしまい、問いただすことも出来ない。それが余計にアンジュの推察に確信を持たせた。
そしてアンジュは感心する。それはジェイクの演技力にだ。魔導部隊の隊長ともなれば、それくらいの技量もあって然るべきだと、アンジュは妙にスッキリとした気分で、エレナに提案する。
「ああ、そうだ、エレナ。今度、妹さんと一緒に買い物に行かない?」
「え? 妹? 何で……」
「何で妹がいるのか知っているかって? ほら、この病院に入る前に、ご家族総出で挨拶に来たじゃない? その時に見ちゃったのよね。エレナそっくりの可愛い妹さんのこと!」
「ああ、あの時に……でも……」
「まあまあ、妹さんにも聞いてみてよ。女三人で恋バナに花を咲かせましょう」
「こいばな?」
「恋愛話よ! 楽しみだわ~」
「ええ! ちょっとアンジュ!」
アンジュからすれば、エレナの妹に今現在付き合っている人がいるのか、もしくは気になる人がいるのか探りを入れたいと思っての誘いなのだが、エレナからしてみれば自分の恋愛話を身内に聞かせようという羞恥極まりない行いだ。そしてもう一つ、正しておきたいことがあったのだが、次のアンジュの言葉で、機会を逃してしまう。
「ああ、デートで忙しいから無理かしら~」
「なっ! そ、そんなことないわ!」
慌てて否定するエレナの顔が赤く染まる。それを見てアンジュはニンマリと笑みを深めた。
このまま揶揄われ続けるのは困ると、エレナは話題を変えることにする。強引な話題転換ではあるが、とても大事な話だと、表情を引き締めた。
「その、アンジュ。少し話しておきたいことがあるの」
赤い顔のまま、エレナがアンジュの目を見つめた。少し思い詰めているような表情だが、赤面しているせいで緊張感はまるでない。
「何? 惚気なら聞かないわよ」
「もう、違うわよ!」
余り揶揄うのはかわいそうかと、アンジュはにこやかに「はいはい、ごめん」とエレナを宥めた。
「そのオールディス様と、ハロルド様のことで、気になる話を聞いたから……」
「気になる話? それって誰から?」
「お父様からよ。前にも言ったと思うけど、オールディス様はお父様の直属の上司なの」
歳が一回り以上違う上司のもとで働くのは、どんな気分だろうと、アンジュは何とも言えない表情をした。エレナの父親は前に居た国では最強と呼ばれ、上に立って兵たちをまとめていたはずだ。この国に来て平民になり、しかもうんと若い上司の下で働くのは、屈辱ではないのかと、アンジュは苦い顔をする。
前世の世界でも年功序列の部分は確かにあった。だがそれは今世ほど如実ではない。そしてその屈辱の原因が、エレナの国外追放なのだと思い至り、アンジュはぐっと言葉を呑み込んだ。
「それでね、近隣諸国では、二人は『怪物』や『化け物』だと言われているの」
「怪物? え? 二人は、って、オールディス様と……えっと……ハロルド様って姓はなんて言うの?」
「あっ! そういえば昨日、自己紹介をするのを忘れていたわ!」
「まあ、彼、凄く舞い上がってたからね」
アンジュが誘拐された時も自己紹介どころではなく、名前だけはジェイクと執事のセバスチャンが呼んでいたので知っていた程度だった。
だが次のエレナの言葉に、アンジュは酷く驚くことになる。
「彼はハロルド・コールズ様。コールズ公爵家の嫡男よ」
「え! 公爵家! 待って、エレナ! 公爵家の嫡男が、平民と結婚するの? っていうか、出来るの?」
今現在、エレナは平民だ。いくら元貴族とはいえ、流石に平民と結婚するには身分が高すぎる。
「ええ、それは大丈夫。というか、オールディス家も公爵家よ」
「なっ!」
余りの衝撃にアンジュは開いた口が塞がらない。そんなアンジュに、エレナはバツが悪そうな表情を浮かべた。
「え、えっと……言わない方が良かったかしら」
「いいえ、言ってくれて良かったわ。それにしても、平民と結婚するっていうから、てっきり男爵家だと思っていたのに……。流石に不味いかも……」
呟くように言ったアンジュの言葉を拾い、エレナは眉間に皺を寄せた。それは平民であるアンジュが貴族の階級について口にしたからだ。
平民にとって貴族は下位だろうが上位だろうが『お貴族様』という括りで畏怖している。それは隣国もこの国も一緒だった。それなのに、アンジュは下位と上位の違いをはっきりと認識し、『嫡男』という言葉も理解していた。それが何を意味しているのか、エレナにはさっぱり分からなかったが、少しばかり不気味に思えてしまう。そして戸惑いながらも疑問を口にした。
「不味いってどういうこと? 何かとんでもないことをしてしまったの?」
「まあ、それなりに。公爵家に連れて行かれた時に、結構な啖呵を切っちゃってね……」
「そう……。アンジュらしいと言えばそれまでだけど。でも大丈夫だと思うわ。今日の感じだと、多分お咎めはないでしょうし」
エレナ的には、ジェイクの態度があからさまにアンジュに好意を抱いているのが分かったからそう言ったのだが、アンジュはそうは受け止めなかった。
エレナの言葉に、アンジュは『やっぱりそうか』と納得する。
エレナをハロルドに会わせるのが第一の目的で、それを果たせたのだから、お咎めはないのだろうと。そして第二の目的まで果たせたならば、きっと全て水に流してくれるのだろうとアンジュは勝手に解釈した。
「それで、怪物ってどういうこと?」
「ええ、実は……二人はとても魔力量が多いの。恐らくはこの大国を消し飛ばせるくらいには。そして魔力量だけでなく、闘気の扱いも国一番と言われていてね……」
先日誘拐された際に、その片鱗に触れたアンジュは驚くことなく黙って話を聞いていた。それをエレナは想像が出来ないからよく分からないのだろうと勘違いをする。
「それにね、二人はこの国の『守護者』なの」
「へえ~すごいのね。『守護者』って、もっと年配の人がなるものだと思ってた」
『守護者』とは、国を護る兵士に与えられる最上級の称号だ。ただ軍や貴族とは関わりのない一般市民は、誰が守護者なのかは知らされていない。守護者と呼ばれる者がこの国を守護している。その事実さえ分かっていれば問題ないのだ。
平民にとっては、自分たちの生活が平穏であれば文句はない。もちろん、感謝はしているが、それが誰かなど興味はなかった。
「ただ、オールディス様は少し厄介で、その……戦闘狂なの。それを止められるのはハロルド様しかいないのだけれど、ハロルド様も結構突っ走ってしまうところがあってね……。若いから仕方がないのかもしれないけれど、軍の方ではそれが悪い方向に進むのではと、危惧しているの」
「そう……」
ハロルドが暴走するのは、誘拐事件を考えれば納得出来ると、アンジュはどう答えていいのか分からず、一言そう返した。誘拐のことはエレナには話していなかったが、益々話せなくなってしまったと、思わず唸りたくなってしまうアンジュだった。
「何故この話をしたかと言うとね、これは私の勝手な憶測なのだけれど、アンジュをオールディス様の足枷にしようとしているのではないかと思っていてね」
「は? 足枷?」
「そう。オールディス様を止められるもう一人として、アンジュに一役買ってもらおうと思っているのではないかしら」
「うーん、ちょっとそれは……いくらなんでも飛躍し過ぎじゃない? それに私にそんな大役、務まらないわよ」
エレナの言葉に、アンジュは先程立てた自分の仮説を思い出す。恐らく、ジェイクのあの態度は演技であって、エレナの妹を引っ張り出すためのものの筈で。そんな明後日の方向に話を進め出したエレナに、どう説明をしようかと、アンジュは逡巡した。
「それにそれだと、私も軍に入らなくちゃいけなくなるじゃない? それは流石に……」
「ええ、そこまではしないと思うけどね。でも、何かしらの思惑はあると思うの」
「うーん」
考え込んでしまったアンジュに、エレナは信じられないのも無理はないと、小さく息を吐き出した。
「お父様が言っていたのよ。最近のオールディス様の態度が余りにも違い過ぎて、とうとう軍の会議でアンジュの名前が出て来たそうよ」
「は? 何で私の名前が軍の会議で出るのよ? おかしいでしょう!」
「オールディス様って、実は軍では鬼上官って言われているほど、恐れられているの。自分にも他人にも厳しくて、常に無表情で……」
「え! 待って、エレナ! 無表情? そんなはずないでしょう? 病院でのお見舞いの時だって、にこやかに話していたし」
「それはアンジュに会えるからでしょう? 知ってた? 本来、魔導士って治癒魔法ですぐに怪我が治せるのよ。なのに随分と入院が長引いているでしょう? それってオールディス様がアンジュに会えるようにしているためだって」
「それって、営業妨害じゃない」
「まあ、お金は出ているから病院側としては問題ないと思ってるのかもね」
「えー」
そんな理由で入院を長引かせるなど、言語道断だと言いたい反面、自分の給金に反映されると思うと、強く言えない現金なアンジュだった。
「そんな鬼上官が、今では寝ても冷めてもアンジュのことを口にしているから、軍の方でも戸惑い半分、呆れ半分ってところみたいよ」
「え! どういうこと?」
「ベントさんは天使のようだ、とか、ベントさんの美しさの前では女神も裸足で逃げ出す、とかね。正直仕事にならないと、お父様もボヤいていたわ」
「は?」
アンジュの思考が停止した。余りにも突拍子もないエレナの発言で。
「アンジュって、本当に鈍感よね」
本当はエレナは『鈍感』ではなく『臆病』だと言いたかった。
今までもアンジュが婚活をしていた中で、本気で結ばれそうな人も何人かいたのに、結局その人のことを信じ切れずに、自分から離れていっていた。それを見ていたエレナは、恐らくアンジュも、誰かに裏切られた経験があるのだろうと察していた。その証拠に、アンジュは相手の男性に、手さえも握らせなかった。まるで試すかのようなその行動は、少し行き過ぎていて、見ているこちらがハラハラとしてしまう程で。
そんなアンジュの行動に、エレナはどうしてそこまで潔癖になるのかと、指摘することはなかった。
もしかしたらアンジュ自身、そうと気づいていなくて、臆病になっている可能性もあるからだ。
そしてもう一つ、『あの日』のことがそうさせているのだろうとも思っていた。
一年前のあの日、魔物暴走が起き、たくさんの兵士が亡くなった。その要因になったのは、この病院に勤める看護師たちだった。そしてあの日、一番後ろを走っていたのはアンジュだった。
足の遅いアンジュは、魔物に追いつかれ、殺されそうになった。それを助けた兵士は、無惨に魔物に殺された。未だ耳にこびりついて離れない、あの兵士たちの断末魔に、一年経った今でも、エレナは悪夢に魘される。きっとアンジュは自分以上に苦しんでいるのだろうと、エレナは暗い顔をした。
兵士の命を奪っておいて、幸せになっていいのかと、エレナもまた思っていたからだ。
それでも、前を向かなくてはと、エレナは殊更明るい声で言う。
「オールディス様は本気でアンジュに好意を抱いていると思うわ。だから頑張ってね」
「なっ、ちょっとエレナ、貴族だから止めといた方がいいって言ったのはエレナよ?」
「ええ、確かにあの時はそう言ったけれど……。今はアンジュがオールディス様と結ばれたらいいなって思っているの。ハロルド様と結婚したら、きっと仕事も辞めなければいけないだろうし、アンジュに会えなくなるのは寂しいわ。だけどアンジュがオールディス家に入ったら、いつでも会えるし、一緒に色々と活動出来そうだし」
エレナは本気でそう思っていた。だがその本音の中に、打算もある。自分一人でなく、一緒に幸せになってくれれば、この罪悪感も少しは薄れるのではないかと。
アンジュは情に厚い。そこに付け込むようで心が若干痛んだが、それでも間違いなく、これは本当の自分の気持ちなのだと、エレナはアンジュにぶつけてみた。
「活動って、前に居た国でやってた慈善活動のこと?」
「ええ。孤児院を回ったり、炊き出しとかね。でももっと違う形で何か出来ることもあると思うの。この病院での経験を活かして」
「まあ、仕事を辞めなきゃいけなくなったら、それも有りかも」
などとつい絆されそうになり、アンジュは大きく首を振った。
「いやいや、そうじゃなくて! 私に貴族は務まらないし、なりたくもないのよ!」
「あら、いい感じだったのに、残念」
「もう!」
そうして二人で笑い合う。
「気が変わったらいつでも言ってね。全力で応援するから」
「気が変わることなんてないわよ。でも良い男がいたら紹介してね」
現金なことを言うアンジュに、エレナは苦笑で返す。だがきっと、アンジュはオールディス家に嫁ぐのだろうと確信していた。
無意識の内に、結婚から遠ざかっていたアンジュもとうとう年貢の収め時だと、嬉しい反面、可哀想だとも思う。
ただ猛獣に狙われてしまったアンジュの幸せを、エレナは願うばかりだった。
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