第2話 この国のなりたちと〈フィール家〉

 う……。

辺りが眩しい……。

どうやら、また″いつか″に戻ったみたいだ。

今度はちゃんと兄様が死ぬ前かな?

「まさかまた――」

「やはり――」

「――魔物の仲間――」

 遠くから人の声がする。

男……いや、女の声もするわね。

彼らは一体……。

「ふぎゃっ、うわーん!」

 え。

なんか、私、勝手に泣き出したんだけど?

 ああ、そういうことか。

まだ周りがよく見えていないこの状況。

そういう気分でもないのに泣き出すこの体。

いままでループしてきた中でも初めての出来事。

 きっと私は、赤ちゃんになっているんだ。

 神様、確かに私は最初からやり直すことを選びましたけど。

最初ってここからだったんですね!?


✳   ✳   ✳


 12回目の人生がスタートしてから数時間後。

私はとても暇だった。

なにせ、本来ずっと赤ちゃんである私を世話するはずの使用人が全く姿を現さないのだ。

 おそらく、この黒髪と赤い瞳のせいだろうけど。

 私が赤ちゃんのときからやり直しているという仮説は概ね正しかった。

私はフィール家第五子のルネッタ。

フィール家当主のリナルド・フィールと彼の二人目の妻フルール・フィールの間に生まれた。

″いままで″と同じだ。

 ただし、一つ違うとするならば。

 目、見えすぎじゃない?

生まれたばかりってあんまり目が見えないと思うんだけど……。

なんなら日本人として生きていた頃よりも視力いい気がする。

なんだろ、神様からのサービス?

 まあとりあえず、この(赤ちゃんとしては)異常な視力のおかげで状況は把握できた。

状況把握が済んだあとって、本当に暇。

とりあえず、いままで生きていたうちに知り得たことを復習しておこうかな。


 ここは主神六柱を信仰する国、〈ディヴァイン神国〉。

主神六柱とは、火の神〈フィアンマ〉、水の神〈アクア〉、風の神〈ヴェント〉、大地の神〈テッラ〉、草木の神〈アルベーロ〉、そして最高神である光の神〈ルーチェ〉からなる六人の神様のこと。

 六人の神々は、この国が今あるこの地に降り立ち、火をおこし水を育み風をそよ吹かせ大地をならし草木を芽吹かせ、そして多くの種族を生み出した。

 最初に創ったのは、精霊。

精霊はこの地の自然を守り、神々に仕えた。

 次に妖精。

妖精は自然と共生し、後に生まれてくる命たちを見守った。

 次に動物や虫。

それらは自然に順応し、この地を栄えさせた。

 そして最後に生み出したのが、人間。

人間はそれぞれで集まり、強大な力を手にした。

神々にとって人間の進化は面白いことだった。

 だから神々は特別に、六人の人間にそれぞれほんの少しだけ力を与えた。

その選ばれた六人の人間は集まり、この地に国を造ることにした。

 そうしてできたのが、この〈ディヴァイン神国〉。

そして六人の人間の子孫が、後の王家と五大公爵家についたのだ。


 そして私が生まれたのは五大公爵家の一つ、〈フィール家〉なのよね。

この家は火の神〈フィアンマ〉の力を代々継承している、とされている。

 でも、どこまでが正しいのだろう。

この国を造るときに人々を従わせるために作った嘘の神話かもしれないし。

大体、その神様から特別に与えられた力だなんて見たことがないし。

 まあ、正直今の時代には関係ないよね。

 公爵家ってやつも、高潔に見えて中身腐ってるし。

私が生まれたばかりだというのに使用人に無視されている理由。

 それは、黒髪に赤い瞳をもって生まれたから。

〈フィール家〉は桃色の髪に同じく桃色の瞳で生まれてくるのがセオリー。

黒髪に赤い瞳は逸脱しすぎている。

 でも、それだけで使用人は仕事を放棄するわ家族は存在自体をなかったことにするわ。

本当に酷い。

でも、この容姿によってもう一つ悲劇が起こる。

実は、私の実の兄である兄様……ルチアも同じ容姿をしている。

 だから、私たちを生んだフルールはもうすぐ不貞を疑われるだろう。

一人なら偶然かもしれないが、二人目もそうなのだから。

 1回目のとき、彼女は不貞を疑われ、何度も違うと言った。

 それなのに、それは事実として伝えられ、否定をした彼女は罰が重くなり、当初はただ家から追い出されるはずだったのが奴隷として隣国に売り飛ばされた。

これは、お父様が隠れて溺愛している愛人が一枚噛んでいるところもあるんだけど。

 だから、私は母親であるはずのフルールとちゃんと顔をあわせたことがないのよね。

 たしかゲーム本編ではフルールの無実とルネッタたち兄妹の異質な容姿の理由が明かされていた。

……彼女たちが死んだあとに。

だから、ゲームのルネッタとルチアは最後まで周りから白い目で見られていた。

 でも、今はそんなことどうだっていい。

私は真実を知っているのだから。

 とにかく今は一刻も早くなにかしらが出来るようにならなくちゃ!

 

 ……その前に、誰か来てよ~(泣)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Play the “My” Life ~妹(総人生13周目)は兄(絶対○ぬ)を助けたい~ 咲也ゆー @saku33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ