第1話 私の人生
私はルネッタ・フィール。
この国〈ディヴァイン神国〉の五大公爵家の一つ、〈フィール家〉の第五子。
でも私は、実の母親の影響で家の中では嫌われ避けられ。
それでも、私を大切に思ってくれている兄様と姉様がいるから今まで頑張って生きてきた。
そんなある日。
私は殺されかけ、兄様が私を庇って死んだ。
兄様は私のせいで死んだ。
私はその事実に恐怖し、驚愕し、泣き叫び、自分の部屋に閉じこもった。
姉様はそんな私を気にかけていつもドアの向こうから話しかけてくれた。
だから私は、私は……。
姉様を庇って死んだ。
姉様は国から〈聖女〉の称号をもらったらしく、悪しき魔王を倒すため仲間の人たちと旅に出ることになった。
そして私にはもう頼れる人が姉様しかいなかった。
それに、姉様に恩を返したかった。
だから私は旅についていき、道中で殺されそうになった姉様を庇って、姉様に振り下ろされたその大剣をこの身で受けた。
そのあとは覚えていない。
痛いのと、熱いのと、力が抜けていくので、意識が朦朧として。
そこで私の1回目の人生は終わった。
そして、気づいたときには兄様が目の前に倒れていた。
兄様は私を庇って死んだ。
それからの私は1回目をなぞるように、最後は姉様を庇って死んだ。
そしてまた。
目の前に兄様が倒れていた。
そのときの私は、三度も兄様の遺体を見て、気が狂った。
目の前に息を荒くして立っている、兄様を殺した男に。
勢いのまま殴りかかって。
その、兄様を殺した剣で切りふせられた。
でも結局私は生き延びて。
また、姉様を庇って死んだ。
それからずっと。
私は繰り返してきた。
自分が死んでから、まず最初に兄様の遺体を見て。
そのあと私がどんな行動をとろうと。
必ず最後は姉様を庇って死んだ。
もう限界だった。
どうして何度も繰り返すの?
私は何か悪いことをした?
最初は大切な姉様を助けれてよかった、そう思っていたけれど。
何度も繰り返すうちに、どうしようもない怒りが湧いた。
どうして私はあなたの代わりに死ぬの?
どうして私は″いままで″のことを覚えているのに、あなたは何も覚えていないの?
どうして誰も、
私たちを助けてくれないの?
私だけじゃない。
兄様も、この繰り返しの中で何度も死んでいる。
ねえ。
もし、もしも。
私が1回目のときに兄様を死なせていなかったら。
なにか、変わっていたの?
でも、もう遅いね。
「ハ、は」
「ケホッ、ごぼっ」
乾いた笑いがこぼれでて、それと一緒に血を吐いた。
11回目の人生が、終わろうとしている。
今回の私は、とにかくフィール家から逃げた。
そして、逃げた先で旅をしている姉様に出会ってしまった。
最後は、また姉様を庇って。
神様。
もう私は疲れました。
何度も兄様の死を見て。
何度も姉様の代わりに死んで。
私があのとき、1回目のときに兄様を死なせたから。
だから、あなた様はこのような仕打ちをなさるのですか?
我がディヴァイン神国を見守ってくださっているという、光の神ルーチェ。
もう、終わらせてください。
死なせてください。
お願いします……。
「ばか……」
私は、兄様を死なせた。
殺したも同然よ。
こんな許しをこうだなんて、無責任。
私を終わらせる前に、兄様を助けないと。
「でも、もう、おそいんだよなぁ……」
たとえ今後も繰り返しても。
きっとそのとき、兄様は死んでいるだろう。
助けることなんて、出来ない。
もし、最初から。
兄様が死ぬより前から。
やり直すことができたら。
「こんどこそ、助けたいよ……」
やり直したい。
最初から。
全て。
お願いします、神様……!
ヴン
何か音がした。
視界に、何かが映っている。
画面のような、何か……。
「がめん……?」
それは、なんだっけ。
私が、ずっと昔にやっていた。
全世界の子供も、大人も、楽しんでいた。
「げー、む?」
ずっと昔の、ずっと忘れていた、記憶が頭の中に流れ込んでくる。
それは、こことは違って娯楽に溢れて、比較的平和な世界。
私が、″わたし″だったときにいた世界。
目の前の画面に文字が映し出される。
――バグが発生しました――
――バグが発生しました――
バグがばぐがばぐがばぐがばぐがbbbbbbbbbbb
――強制的にゲームを――
画面の文字が歪んでいく。
きれいな黄色の画面が、赤色に染まっていく。
この色は。
この燃えるような、血のような色は。
私と兄様だけの色。
二人だけの、瞳の色。
――バグが発生しました――
――ゲームのデータは消去されます――
――電源を切ってください――
私が欲しいのはこの言葉じゃない。
確かにさっきまでは、この言葉を欲していた。
認める。
ここは、″わたし″がプレイしていたゲームの世界。
だから、ここで電源を切ったら。
私の繰り返し……ループは終わるだろう。
でも、私には助けなければならない人がいる。
このゲームのデータは消去された。
それなら、きっと。
――それとも――
――最初から、全てをやり直しますか――
ああ。
ようやく。
私はあなたを救える。
画面に『YES』と『NO』という文字が映る。
もうほとんど体を動かすことが出来ない。
当たり前だ。
むしろ、今この瞬間まで生き延びているのが不思議なくらい。
全身にわずかにのこった力をかき集めて、画面に手を伸ばす。
迷う理由なんてない。
そして。
『YES』の文字に、触れた。
そのあとすぐに、力が抜ける。
霞んでいく視界の中で。
その画面だけははっきりと見えた。
――それでは――
――もう一つの、人生を――
――Play the Another Life――
その刹那。
画面が白に染まっていく。
そして、『Another』の文字だけが歪んでいき、違う文字が映し出された。
――Play the My Life――
そうだ。
これは、もう一つの人生なんかじゃない。
たった一つの。
私の、人生だ。
視界が真っ白に染まった。
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