第35話 結成 勇儀団
「以前、陸君が言っていた。津波の龍のことなんだけど、みんなでやっつけようて話になったんだよ」
――おいおい、マジかよ。話を信じてもらえるのは嬉しいのだが、あいつを倒したいわけじゃないんだ!ただ叶芽を奪われたくないだけなのに……
しかし、ここに集まったみんなは龍退治にでも行くかの勢いであった。
いつもはふざけてばかりの祐希が、いつになく真剣に語り出した。
「この前、陸君が言ってただろう?ちぃちゃんと全校生徒の命どっちが大事かって……あのあと僕も真剣に考えてみたんだ。そんなの両方大切に決まってるじゃないかって思ったんだよ!」
――祐希らしい考えだ!だが、そんなこと本当に出来るのか?
すると俺の周りに、ぞろぞろとみんながきた。その笑顔は、やる気と希望に満ちていた。
「そりゃ、僕一人じゃ無理だけど、みんなが一つになれば、なんとかやれるんじゃないかって考えたんだ!だから、こうしてみんなに声をかけて集まってもらったんだよ」
福田先輩が肩に腕を回して、グッと引き寄せた。腕力にものをいわせた力に、俺の顔が青ざめてゆき死ぬかと思った。
「そうだぞ!五條よ、ワシらを除け者にすることは許さんぞ」
福田先輩は受験勉強のうっぷんが溜まっており、ただただ暴れたいだけのようであった。
「力になれることがあるなら、なんでも言ってね」
――伊藤先輩も助けてくれるのか?頼もしい限りだ……
「そうだ!こうなったらチーム名決めようよ!五條君、なんかいいチーム名はないの?」
――藤咲さんは、なにかの大会と勘違いしているのか?でもチーム名と言われてもなぁ……
俺は腕組を少し考えた、そしてハッと思いついた!これならみんな喜んでくれるはず……
「そうだ!ドライバーズってのはどう?」
俺が好きなドライブシリーズから取ったチーム名であったのだが、皆の反応は薄く、シーンと静まり返った。
――辞めてくれ、この静けさは俺のピュアなハートを突き刺すようだ。
その時、桜井さんがパチンと手を打ち、恥ずかしそうな顔で提案した。
「それじゃ、〖勇儀団〗ってどう?かなぁ……醤油屋梧兵が昔作った組織の名前なんだけど、どうかな?」
「それいい。すごくいいよ!」
祐希が両手をあげて嬉しそうな顔で〖勇儀団〗がいいというので俺もその意見に賛成した。
「よしそれじゃ、チーム名は〖勇儀団〗に決定だ」
すると叶芽が上に手を乗せろと言わんばかりに手を差し出して来た。試合などで、よくやる一致団結のために、円陣を組んで手を重ね掛け声を合わせるアレをやろうと言うのだ。
俺は叶芽の差し出した手の上に、自分の手を重ねた。すると風花が俺の手に、自分の手を乗せた瞬間、バチッと静電気が起きた。その痛みで三人の手が引き離された。
「痛ッたぁ……今、静電気来たよね。この時期最悪なんだよね……これ!」
俺と叶芽は、苦い顔をして痛がっていたが、風花はさほど、そうでもない様子であった。
「ごめんね……お姉ちゃん」
「うん大丈夫だよ。それじゃ、もう一回……」
改めて円陣を組み、みんなの手を重ね、掛け声をかけて一致団結を促した。さらに、叶芽は団結を深めるために、自分の秘密を告白した。
「なぁ、みんな聞いて……」
なんだ、なんだと叶芽の言葉に耳を傾けたみんなだったが、その告白に驚きを隠せずにいた。
「うちなぁ……呼詠と違うんよ、十一年前の阪神淡路大震災で死んだ呼詠の姉、叶芽なんよ……信じてもらえんのはわかっとぅ」
店内が一瞬しーんと静まり返った。その告白に皆が顔を見合わせていた。どうやらその意味が、よく分からずに動揺しているようであった。それでも叶芽は続けてこう話した。
「うちと呼詠は涙を流すと、二人の人格が入れ替わるの……勉強が得意な呼詠が授業を受けて、スポーツが得意なうちが体育の授業に出ていたの……」
それを聞いた桜井さんと藤咲さんは顔を見合わせて、うんうん!なるほどね……っと納得したような顔をしていた。
「ごめんなさい。騙すつもりじゃなかったの……でも呼詠とこんな感じで過ごした時間が、とても楽しかった。呼詠もうちを受け入れてくれていたし……でも、今はどういう理由かは分からないんだけど、入れ替わることが出来なくなっているの……」
すると風花が、寂しいそうな顔で、うつむいた。そんな彼女の手を小春ちゃんがしっかりと握り締め、大丈夫だよ、心配ないよっと微笑み、風花も嬉しそうに笑った。
「もしかしたら、このままずっと変われないかもしれない……それでも呼詠のことは嫌いにならないであげてほしいの……お願い」
叶芽が語り終えると涙を流すが、人格は叶芽のまま呼詠さんにはなれない。すると桜井さんがやってきて叶芽をそっと抱きしめた。
「そんなの……心配ないよ。誰も呼詠ちゃんのこと、嫌いになんかならないよ」
そこへ藤咲さんもやってきて、二人ごとギュッと抱きしめた。
「そうそう……呼詠っちも叶芽っちも、みぃんな大好き……嫌いになんかならへんよ。大丈夫やぁ」
「ありがとう……みんな……」
カランカラン……閉店中の喫茶店のドアが開き、誰かが入ってきた。
「なんやぁ?えらいしんみりしとんなぁ、今日は、お通夜かなにかかぁ?」
ひょっこりとぼけた顔をして、入って来たのは橘さんであった。
「橘さんこそ、神戸からわざわざ……どうしたんですか?」
「あぁ、美和さんに呼ばれたんだよ。仕事を早めに切り上げて急いで来たんだが、なんかあったんか?」
俺は今までの話をすべて橘さんに伝えた。橘さんは椅子に座ってなにも言わず、腕組みをして聞いてくれていた。
「なるほど……わかった。それなら俺も協力させてもらうよ。美優もかなり心配していたからな!」
俺達は橘さんという心強い仲間を得て、大喜びで
飛び上がっていた。
「それで……これからどうするんだ?」
「あっ……まだ考えてません」
「はぁ〜」
この日は、チーム結成を祝うパーティが、夜遅く開かれた。なにをどうするか……後日集まって考えることになった。
次の日曜日、俺達は、閉店後の喫茶 花梨に集まり対策を練ることとなった。
美和母さんは買い物に出かけていなかった。
窓際には作りつけの長椅子があり、そこに四人がけのテーブル席がある。それをくっ付け、十人がけの席を作った。
テーブルの上には、ポテトチップス、ポッキー、チョコ、クッキーなど、各自が持ち寄ったお菓子が置かれ、さながら小パーティーのようになっていた。
叶芽と伊藤先輩は、店の奥から飲み物をみんなに配って回っていた。
俺は思考を凝らして考えたのだが…………いい案が出ずに途方にくれていた。
福田先輩は一人カウンター席に座り、目を瞑り腕組みをして悩んでいた。ポクポンと木魚の音が聞こえてきそうであった。しかし、よく見てみるとただ寝ているだけのようであった。チーーン!
そんな時、藤咲さんがポッキーをくわえたまま、つぶやいた。その一言が大きな影響を及ぼすこととなった。
「いっそのこと、津波警報でも鳴れば、話は早いのになぁ〜」
――その手があったか!
俺は携帯を取り出して情報を集め出した。俺の目の前には野田君と風花が座っていた。野田君は半ば諦めムードを漂わせて、ため息を着いた。
「でも、ただの津波警報じゃ、誰も逃げたりなんかしませんよ」
「だよなぁ〜」
俺の横にいた祐希もその意見に同意して、テーブルにぐったりと寝そべった。
「それじゃぁ、普通の津波警報じゃなきゃいいんだろう!」
「なに言ってるのさ……そんなこと出来るわけないじゃないか!」
俺は携帯の情報を祐希に手渡して見せた。祐希もムクりと起き上がり、無気力で情報を眺めていた。
福田先輩もなんだなんだと携帯を覗き込む。
「春ごろに化学薬品工場で火災があっただろう?あの時、近くの住民はみんな避難させられたんだよ」
祐希は、その意味が分からず、頭の上に はてなマークがついていた。
「それとこれとどう繋がるって言うのさ……」
「そうよ……また変なこと、考えとるんじゃなかとぅ……?」
叶芽が俺の隣りに座り、怪訝そうな顔をして怪しむように見ていた。
――辞めてくれ、そんな顔で見ないでくれ……
「まぁ〜いいから、いいから!野田君……」
「はい?」
またイヤなことを頼まれそうな予感を感じた野田君は、ビクッと怯えた表情でこちらを見ている。
「以前、見つけた爆弾は、まだ蔵にあるの?」
「はい!蔵の中で、まだ眠っているはずですが……まさかアレを使うって言うんですか?」
俺は子供がイタズラを、考えついたような顔でワクワクしながら語り出した。
「そのまさかだよ……その不発弾が津波がくる前に見つかれば、町民は避難勧告が出て嫌でも、みんな逃げるだろう……?」
「ダメよ!そんなことしても誰も避難なんかしないし、警察に捕まるのがオチとぅ!」
叶芽がその意見に猛反対していたが、福田先輩はノリ気で、その意見に賛成してくれた。
「おぉ、それいいなぁ……面白そうだ!」
予想外だったのは風花の反応であった。なにも語らず、ただ野田君の横に座っていたのが印象的であった。
男子共は楽しそうなイタズラに、浮き足立っていたが、女子達は犯罪まがいなイタズラにドン引きしていたようで、別の方法を考え始めた。
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