第3話 極道先生あらわる!
春・夏・秋・冬四つの四季の中で、この春と言う季節が嫌いだ。父さんが死んだ季節というのもあるのだろうが、憂鬱になるのが……嫌いだ!
キャーキャーキャーと女子生徒の甲高く黄色い声が校庭内で飛び交っている。春一番の突風でセーラー服のスカートがめくれ上がり、必死に抑えているのだ。
春は嫌いだが、春一番は……大好きだ!
そんな四月の桜舞い散る、うららかな春の日にやってまいりました。
なぜ
俺の担任になった先生は丘石
廊下を歩く丘石先生の後ろを、俺がついて歩くと生徒が注目した目で見ている。まるで有名人にでもなったかのようだ。まぁ、転校生がもの珍しい気持ちもわかる……そう思っていた。
「先生今日はどこの組を襲撃に行くんですか?」
はぁ〜!?意味のわからんことをいうやつだなぁ!襲撃ってなんだよ。ヤクザ映画でもあるまいし……ん?ヤクザ映画……?
トイレにあった鏡をチラッと眺めてわかった。学ランの襟元からパーカーのフードを出し、頭は金髪の不良少年の姿が鏡に映っている。
なるほど!そういう意味かぁ。こわもての丘石先生が中卒上がりのチンピラを率いてどこかの組を襲撃にやってきたかのような光景であった。
それには丘石先生も気づいたようで、怒りが爆発していた。
「どこに誰が何しに行くってえぇ……バカやろ〜早く席につけ、朝礼始めるぞ!」
ドスの効いた声が響いて桜吹雪が舞い散った。まさにヤクザの世界、極道の花道である。
「おまえも……その頭、明日までになんとかしてこい」
その話はさっきみっちりと聞いたばかりであった。今日のところは仕方ないから、そのままでいいって言ってたのに、どういうことだ……完全に八つ当たりだ!
「あとそのフード!中に閉まっておけ!」
「はぁ〜ぃ」
急いでフードを学ランの中に入れた。明日までに髪を染めないとマジで殺されかねない。
……そんな丘石先生もひとたび教室に入れば、生徒達に人気の優しい先生であった。
「先生今日のスーツ、決まってますね。かっこいい……さすがは組長の息子だぁ!」
「バカヤロー組長じゃね!町長だ。そこだけは間違えるんじゃねぇぞ!早く席につけ、朝礼初めっぞ!」
みんな楽しそうな笑顔で席着いたが、ざわつきが収まる気配を見せなかった。やはり転校生の俺が気になるようだ。
ヤバいあの髪見て……まさかの不良怖い……などの話声が聞こえてくる。
もぅその句たりは、いいつうの……どんな生徒がいるのかと確かめて見た。
――あれ?あの子は、この前……確か浜辺で……
このクラスの中に浜辺で見かけた少女が席に座っていたのだ!
自分が緊張していたとは思っていなかったが、知っている顔を見てホッとしている自分がいることに気づいた。
「お〜い、静かにしろ〜えぇっと今日は最初に転校生を紹介する」
先生は黒板に俺の名前をでかでかと書き出した。
『五條 陸』これが俺の名前だ!
「それじゃ、簡単に自己紹介やってみようか……」
先生は頑張って喋れよっと言わんばかりに俺の背中を優しくポンと押し出してくれた。
「ハイ……」
――ヨシ!俺もここはかっこよく、バイブス燃やすぜ!……勇み足で意気揚々と自己紹介を始めた。
「ごじょう りくです。千葉県から転校してきました。特技は剣道、昨年の千葉県大会で優勝しました。趣味は特撮ヒーローものです。特にドライブシリーズが好きで今は〖ゴーストドライブ焔〗にハマっています……」
〖ゴーストドライブ焔〗とは
主人公の焔が昔の偉人を自分の身体に憑依させ、その偉人の力を使って、悪の秘密組織と戦う物語である。
「あ〜〜もぅそれぐらいでいいだろう……そろそろ朝礼を始めたいんだがなぁ……」
先生は時間を気にしながら眉をひそめて俺の話をさえぎってきた。
ちょぃちょぃ…ちょっと待ってくれよ!これから最後にビシッと決めるんだからさぁ……
「あの〜すみません。あとひとつだけ言ってもいいですか?」
先生は深いため息と共に、早く終わらせろよっ、と手で合図をおくってくれた。
「ハイありがとうこざいます。」
俺は万遍の笑みを浮かべた。人差し指で天を指さし、真顔で決めゼリフを披露した。
「おばあちゃんが言っていた。男がやってはいけないことが二つある。女の子を泣かせることと食べ物を粗末にすることだ……ってな」
やったぜ!決めセリフがかっこよく決まったぜ!ドヤ顔でお目当ての彼女を見つめた。
しかし彼女はなにも聞いていなかったかのようにうつむいてしまう。あれ、あれ……なんだスベったのか?マジかぁ……やはりこのネタは受け入れないのか?関西人の笑いは難しいなぁ……
教室にも冷たい風が吹き抜け、どんよりと重苦しい空気に入れ替わった。生徒達の表情が凍りついてゆくのがわかった。
先生はもうそのくらいでいいだろうと……頭の上にポンと出席名簿を乗せ、俺の決めゼリフを即興でアレンジして返してきた。
「先生が思った。男がやってはいけないことが二つある。生徒を苦しめることと時間を粗末にすることだ、ってな」
その瞬間、教室全体が爆笑の渦に飲まれた。さすがは、先生だと関心させられるばかりであった。
先生は空いた席を指さした。
「おまえの席はあそこだ。早く行け……」
「はぃ……」
俺は美味しいところをカッさらわれた気分と敗北感を背負いながら、とぼとぼと指定された席に着いた。
後ろの席からシャーペンでツンツンとつついてくるやつがいた。
「僕は上村 祐希(かみむら ゆうき)!祐希でいいよ……ライダーシリーズが好きなのか?」
「俺は、五條 陸!陸でいいよ」
「さっきの決めゼリフ、あれ良かったよ。僕もドライブシリーズは毎週見てるからわかるよ……でも、あれをここでやるとは思わなかったよ」
笑顔で話掛けて来た祐希は、ぽっちゃり系で人懐っ子そうな性格の奴だった。
「おぉ……ドライブシリーズ好きなのか?」
痛いところを突かれたが、いきなり仲間はいた!特撮談義に花を咲かせようと思っていたのだが……
「好きと言うほどでもないけどねぇ……流れで見ている感じかなぁ……僕はUouTubeが好きでよく見てるよ!」
UouTube【ウーチューブ】とは
ネットによる動画配信サービスの名称である。
俺も特撮ヒーローものを検索するのによく利用していた。
「あっ!でも、だいたいドライブものの内容は覚えているから大丈夫だよ」
「そうか、ありがとうなぁ!あとで一緒に話しようぜ」
とりあえず、仲良くなれそうな友達が出来て良かった。これからのオタク談義が楽しみだぜ!
「うんいいよ……あとわからないことがあればなんでも聞いてくれればいいからね」
なんて心優しいやつなんだ。心の友よ……それじゃぁひとつお願いしてみるか……
「ありがとう!それじゃぁ……あの窓際から2列目で前から4番目に座ってる女の子はなんていう名前なんだ?」
祐希は席順を数え俺が指定した席を探し当てて、おおっというような顔をした。
「いいね!北川呼詠(きたがわ こよみ)さんだよ……あの子に目をつけるとは、お目が高いねぇ!成績優秀、スポーツ万能、さらに学級委員長の美少女だもんね。学校内でもあの子目当に、ここに来る男子もいるくらいだよ。競争率が高いから頑張ってね!」
「ありがとう助かったよ」
なるほどね……心の友よ、そこまで詳しく教えてくれて助かったよっとグッジョブサインと笑顔をおくった。
「ハイそこ、うるさいぞ静かにしろ!」
上村に先生のクレームが飛んできた。いろいろ教えてもらったのに叱られちゃって、ほんとごめんなぁ……
それから一週間、休み時間になる度、俺は呼詠さんに海でのことを謝ろうとするのだが、すぐに仲のいい友達が呼詠さんを取り囲んでしまい話を切り出せない。
何度か呼詠さんを追いかけるのだが、なぜか目が会うと逃げてしまう。なぜだ!俺はそんなに怖いのか?嫌われているのか?
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