「紗夜?」

 口に出して呼んでみるが、どこからも返事はない。

「紗夜?」

 わかっている。わかっているのだ。生贄になった紗夜の体は、もうこの世に存在していない。それは理解していたし、僕の幼馴染も、それらは全て、承知の上だった。

 ……それでも、こんなに苦しいんだな。

「……んっ」

 その声に、僕は思わず視線を床に向ける。そこにはイズニさんの魔術で錬成した、娃の体があった。その額には、僕が置いた『デバイス』の姿はない。

 その代わりとでも言うように、その体は、顔の瞼が僅かに動き、口から少し、悩ましげな声がする。

「……ん、っぅ」

「娃? 紗夜?」

 そう言いながら、僕は娃の体を抱き起こした。触れた体は熱を持っており、とても先程まで動いていなかったとは、信じることが出来ない。まだ眠くて二度寝していただけだと言われれば、信じてしまいそうなほど、触るからだから命を感じることが出来る。

「娃? 紗夜?」

「れ、ん?」

 僕の言葉に応えるように、娃の体は瞼を開けた。その瞳に、僕の姿が映り込む。瞳に映った僕の顔は、姉の娃と、そっくりだ。

 微かに笑った後、僕は彼女たちに問いかける。

「どうだい? 新しい体は」

「まだ、ちょっと、だるい、かな」

「どうだい? 新しい瞳で見る世界の光景は」

「世界っていうか、漣の顔しか、まだ見てねぇけどな」

「その瞳から見て、僕は何か変わったように見えるかい?」

「変わらないよ。いつも、毎朝見てた顔だ」

「鏡でかい?」

「ちげーよ。双子なんだから、同じ顔してるに決まってるだろ」

 そう言われて僕は、彼女たちの体を、強く抱きしめた。

 一度は失った姉であり恋人と、そして僕の大切な幼馴染を、もう二度と手放すまい、と。

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