「痛っ! な、何するんですか、イズニさんっ!」

「だるー。どうせ死んだ姉を蘇らせる選択以外ないんだから、そーゆー悩みは、一緒に過ごしながら解決しなよー」

 そう言った後、異世界人は僕の幼馴染の方へ、気怠げに視線を向けた。

「それとも、もっとだるいことに、あの子の決意を無駄にする気ー?」

「いちいちお前に気を使われなくても、ボクはボクで好き勝手やってるだけだがな」

 そう言った後、紗夜は僕の隣に並ぶ。

「まぁ、漣が何を悩んでるのかは、大体想像できるよ。でもな? イズニが言った通り、娃を蘇らせるって決めている以上、他に選択肢なんてねぇんだよ。それに、『デバイス』っていう、魔法みたいな演算能力を手に入れられたら、ボクは今まで以上に、もっと凄いことが出来るかもしれないだろ? 例えば、姉さんの声を聴くだけでなく、本当に蘇らせたりとか、さ」

「それは、タイムパラドックスが発生するので、見逃すことは出来ませんね!」

「わかってるよ! 未来人! 例え話にマジレスすんじゃねぇ! ったく、わかってねぇなぁ」

 悪態を吐きながら、紗夜は僕に向かって手を差し出す。

「ボクの体はなくなっちまうからな。最後に握手でもしておこうぜ?」

 そう言った後、紗夜は僅かに小首を傾げる。

「ん? でも、ボクの遺伝子情報を持った体は残るよな? だとすると、ボクという肉体に触れれる機会は、まだあるのか? でも外見は娃だから、今のこのボクの体で握手をするには最後になるよな? んー、なんだかややこし――」

 そこまで言った所で、僕は思わず紗夜を抱きしめていた。

 大國さんたちの協力を取り付けるために、タイムパラドックスが起こらない方法を考えてくれていたり、娃の体と『デバイス』を紐づけるために今の体を生贄に捧げる決意をしてくれたりと、言葉だけではとても伝えきれない想いが、僕の中で渦巻いている。

 でも、それでも僕の口から零れ落ちたのは、たった一言だけだった。

「……ありがとう、紗夜」

「……へっ。謝らなかっただけ、よしとしてやるぜ」

 そう言った後、僕から一歩後ろへ下がると、紗夜はナミネさんを射るような強い眼差しで一瞥する。

「さぁ、ボクを娃が入っている『デバイス』の中に入れてくれ」

 その言葉を受けて、ナミネさんが僅かにうなずく。大國さんも笑顔をみせており、止める様子はない。

 先程娃を蘇らせた『デバイス』を、僕は改めて手にする。それはサイコロを二、三まわり大きくしたような正方形のもので、既に娃をこの『デバイス』に表現しているからか、ほんのりと温かみを感じる。

 そんな僕の腕をナミネさんが掴み、宇宙人も紗夜の眼前に立つ。

 そして、あの言葉を口にした。

 

「エントロピーを抽出。格納。成功した」

 

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