⑩
……。
…………。
………………。
……………………は?
「ど、どういうこと? 紗夜ちゃん! 生贄にならないのに、死なない?」
大國さんの顔に、無数の疑問符が浮かぶ。しかしそれは、僕も同じだった。
生贄になると、犠牲になると言うことは、それはつまり、死ぬということだ。それ以外の意味が、他にあるのだろうか?
そんな風に思っている僕らを一瞥し、鼻で笑う。
「お前ら、揃いも揃って馬鹿ばっかりなのか? 体を失いながらも蘇った存在が、この場にいるだろう?」
「鳩谷紗夜は、自らのエントロピーを『デバイス』に抽出、格納することを想定しているのか?」
ナミネさんの言葉に、僕は自分の幼馴染の考えを理解して、戦慄した。
彼女には、同じなのだろう。生身の体を持っていようが、『デバイス』という機械という体になろうが、記憶だろうが記録だろうが、自分自身を支えているものがあれば、紗夜は紗夜たり得ると、そう考えているのだ。
……あれだけ僕がAIとして蘇った娃との関係に悩んでいるのを知っているはずなのに、お前は気にせずその道を選ぶんだな。
そう思うのと同時に、僕の口から言葉が零れ落ちる。
「どうして?」
「ん? 言っただろ? 助けてやるって、協力するってさ」
「でも、『デバイス』は、これは、お前の嫌いな科学で作られてるのに」
「ボクが科学を憎んでいるのは、姉さんを救ってくれなかったからさ。でも、今はそれは、紗夜と、そして漣を救ってくれる手段になってるんだ。だったらボクは、それに乗るのもやぶさかじゃないよ」
そう言った後、紗夜は偉ぶるように、鼻を鳴らす。
「それに、ボクはこうも言ってただろ? 死んで生き返った、みたいな、そういう体験をしたいって。髪を切るだけじゃなく、実際、やってみようって、そう思ったんだよ」
そしたら、死んだ姉さんの声も、ひょっとしたら聴けるかもしれないしね。そう言って、紗夜は自分を見る全ての存在を挑発する様に笑う。
「紗夜……」
「ま、そういうわけさ。ほら、さっさとボクをその『デバイス』に表現してくれよ」
そう言って紗夜は、娃が入っている『デバイス』を指さした。
その動作に、僕は慌てる。
「紗夜、それだと、『デバイス』の中で娃とだけ会話を続ければ十分になるんじゃ――」
「大丈夫さ、漣。あれは、娃が漣を求めて、漣が娃を求めていたから、『デバイス』の中で二人は世界を完結させたんだ。ボクと娃じゃ、そんなことは起こらないさ」
その言葉に、僕は安堵のため息を漏らす。
恋人であり姉でもある娃と、そして幼馴染の紗夜から見捨てられたら、今度こそ僕は生きる気力を完全になくしてしまうだろう。
安心した表情を浮かべる僕を見て、紗夜は苦笑いを浮かべた。
「ま、そういうわけだから、この大胆な所があるくせに自分に自信がない幼馴染を安心させてやるために、ボクを『デバイス』に表現してくれよ。漣を『デバイス』に表現出来たんだから、同じく生きてるボクを表現出来ないってことは、ないだろう?」
紗夜のその言葉を聞いた大國さんは、ニコリと笑って、こう言った。
「申し訳ないけれど、それは無理かな」
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