「は?」

 大國さんの表情が、固まる。

 わけがわからない、という表情で、未来人は僕ら全員の顔を見渡した。

「生贄は、私、の、可能性は、さっき否定しましたよね。ナミネさん、は、力付くでどうにか出来る相手じゃありませんし。漣くんは、そもそも漣くんのために魔術を使おうとしているのに生贄にしたら、本末転倒です。なら、残るは、イズニさん? でも、彼女も魔術という力があるのに、漣くんと紗夜ちゃんが協力しても、どうにも出来ないでしょ?」

「そうさ、だから、残る一人が、一番生贄に適してるのさ」

 そう言って紗夜は、ニヤリと笑う。

 そして、不敵に口角を吊り上げて、口を開いた。

「ボクだよ。ボク自身が生贄になれば、娃が入っている『デバイス』と、娃の体を紐づけることが出来るのさ」

 その言葉に、大國さんが動揺する。

「ま、待ってくださいよ! さっき、あなたたち、言いましたよね? 一体で、人一人がどうにか出来る範囲のことは出来る、っと! それなら、紗夜ちゃん一人だけが生贄になっても、出来ることなんて、限られてるじゃない!」

「そうさ。でも、ボクは後も言ってたよな? 生贄に捧げたその人間の結果、未来を先取りして今の時代に引き寄せられる、と」

 つまり――

「生贄に選んだ存在によって、得られる結果は違うって、そーゆーことだよ」

 イズニさんの言葉に、紗夜は大きくうなずいた。

 そして、異世界人と共に運んできたクーラーボックスへ、視線を向ける。

「あそこで眠っている、生贄用に魔術で用意した人間の体と、曲がりなりにも自分の理論で魔術を使える異世界からイズニを召喚したボクじゃ、将来得られる未来は、全く違うように思わないか?」

 確かに、紗夜の言う通りだろう。

 異世界をつなぎ、イズニさんを呼び寄せた紗夜なら、将来、もっと凄いことをなし得るに違いない。

 それこそ、AIとして蘇った娃と、魂も何もない抜け殻な娃の体を結びつけるのは、造作もないことだろう。

 そして紗夜は、自分を生贄にすることで、今はできないが未来でできるようになるという、その結果を呼び出すことが出来るのだ。

 ……でも、それは僕だって、変わらない。

 先程大國さんは、誰を生贄にするのかという可能性について言及していた。その際、僕の望みをかなえるために、僕を生贄にしないと除外した。

 ……でも、僕だって、紗夜に負けず劣らず、特異な存在だ。

 何せ、未来人と、宇宙人と、異世界人との交流があるのだ。僕を生贄に捧げても、『デバイス』と娃の体を結びつけることは、可能だろう。

 でもそれは、早い話、僕の命と、娃の命を、交換するということになる。

 娃を蘇らせる代わりに、僕が死ぬのだ。そうすれば、肉体を持つ娃を蘇らせたいという、僕の望みを叶えることが出来る。

 そしてその方法は、紗夜が先に思い至ったものだ。あの時、『ボクに考えがある』と言った紗夜の考えに気づいた。だから僕は、自分自身を犠牲にしようと、そう思っていたのだ。

 でも僕の幼馴染は、つい先ほど、その役目を自分が背負うと宣言した。

 その事実を確認する様に、未来人が信じられないものを見るかのように、紗夜の方へ瞳を向ける。

「紗夜ちゃん、死ぬ、気、なの?」

 大國さんの言葉に、僕は歯噛みする。

 そうだ。魔術の生贄になるということは、生贄という言葉通り、犠牲になるということだ。

 生贄という、その言葉の意味通り、紗夜は娃を蘇らせるために、その身を捧げようとしているのだ。

 しかし――

 

「は? なんでボクが死なないといけないのさ」

 

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