……今、紗夜は、なんて言いた?

 大國さんと、僕が求めていることを、両方叶えると、そういったのか?

 ……それは、僕の想定と、違っている。

 僕は、紗夜が娃を残りの『デバイス』に蘇らせて、彼女とイズニさんが作った、娃の体に紐づけて、娃を擬似的に有機生命体として蘇らせようとしているのだと、そう思っていた。

 ……でも、その方法だと、擬似的とはいえ、娃は蘇る。つまり、タイムパラドックスは発生するということになるよな?

 何か、僕は見落としているのだ。決定的な、何かを。

 ……紗夜が何をしようとしているのか、それを知っている可能性があるのは、ずっと彼女と生活していた、イズニさんだけだ。

 そう思いながら、僕は異世界人の方を一瞥するが、彼女はいつものように気怠げな、それでいて何かを諦めたかのような表情を浮かべているだけだった。

 ……やっぱり、イズニさんは、紗夜が何をしようとしているのか、知っているってことなのか?

 幼馴染が何をしようとしているのか、それを探るために僕は自分の記憶を探っていく。でも、そんな僕を気に留めた様子もなく、大國さんは満面の笑みを浮かべていた。

「私と、漣くんの望みを、同時に叶える、ですか。それがどういう意味なのか、紗夜ちゃんは、理解しているんですよね?」

「当たり前だろう? そうじゃなければ、口にはしないさ。つまり、タイムパラドックスを発生させずに、娃を体を維持した状態で蘇らせてやろう」

 そんなこと、本当に可能なのだろうか?

 紗夜が、なんの確証もなくそんなことを言っているとは思えない。でも、彼女が言った内容を実現するのが、どれほど大変なのかは、僕は十二分に理解している。もちろん、その二つのうち、どちらを実現するのが簡単なのかも。

 ……このまま何もしなければ、生身の娃は、死んだままだ。未来で娃が死んでいるという状況は変わらないので、タイムパラドックスは発生しない。

 つまり、大國さんが証明しようとしていることを、満たすことになる。

 でも、それはイコール、体を持つ娃の復活を否定することになるのだ。

 ……だって、娃は死んでいるって未来は変わらないのに、生身の体を持つ娃が生きているなんて、おかしいじゃないか!

 生身の体を持つ娃を蘇らせる方法は、僕も検討は付いている。その考えが紗夜と一致しているからこそ、あの幼馴染は『デバイス』に娃を蘇らせることにこだわっているのだ。何はともあれ、『デバイス』に娃が復活していなければ、そこから先には話が進めないのだから。

 でも、だからこそ、わからない。大國さんの証明も、僕の望みも、一体どいやって叶えるというのだろうか?

 挑発するように、紗夜はナミネさんに向かって、視線を送る。

「何だ? それとも、もう情報が古すぎて、お前らの力じゃ娃を復活されることは、もう出来ないのか?」

「否定。榧木娃のエントロピーを抽出することは、可能である」

「そこまで言うのでしたら、是非見せて頂きましょう! そんな、いいどこ取りを出来るような方法があるのであれば、私としては止める理由がありません!」

 その言葉を聞き、紗夜はいやらしく笑うと、僕の方へ視線を送る。

「だとさ。良かったな。もう一回、お前だけの娃が蘇るぜ」

「……お前、何をする気なんだ?」

「それをみせるには、まず『デバイス』に娃を蘇らせるところからだな」

 その言葉を聞くと、大國さんは銀色に光る『デバイス』を僕に差し出した。それはサイコロを二、三まわり大きくしたような正方形のもので、つまりは娃Cが生まれ、そしてすぐに消された『デバイス』だった。

 それを受け取ると、すぐにナミネさんに腕を掴まれて、また娃の部屋へと連れて行かれる。

 そして、また宇宙人は、あの言葉を口にした。

 

「エントロピーを抽出。格納。成功した」

 

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