僕の言葉を遮るように、紗夜はそう言い切った。そして再度、その発した言葉が間違いではないと宣言するように、ショートカットになった幼馴染は腕を組んで、不敵に笑いながら口を開く。

「余った、残り一つの『デバイス』。それに、榧木娃を、もう一度蘇らせてくれよ」

「……確かに、『デバイス』は一つ、余っています。それを使うことに、私は異論はありませんね! でも、なんのためにそんなことをする必要性があるのかな? 情報生命体となった娃ちゃんは、漣くんが説明してくれた通り、今私たちの眼の前にいる連くんではなくって、情報生命体の漣くんを求めてるんだよ? なら、その結果は変わらないんじゃないかな?」

 大國さんの言葉を聞いて、紗夜は不敵に笑う。

「変わるんだよ。それこそ、さっき漣が言ってただろ? こいつを使えば、娃は体を取り戻せるんだ。つまり、情報生命体として感じている世界を、生身の体を経由して受けるようになる。どうだ? 今生身の体で会話をしている、ボクらと何が変わらない?」

「でも、その手法は――」

「何だ? あんた、まさか、これぐらいで起こるって思ってるのか? あんたが否定するためにわざわざこの過去にやってきた、タイムパラドックスが起こってしまうって、そう思ってるのかよ?」

 挑発的に笑う紗夜に対して、大國さんはいつも浮かべている様な笑顔で笑いかけるだけだった。でも、両者の間で漂う雰囲気は不穏そのものでしかなく、けれどもその様子をナミネさんは相変わらずの無表情で眺めており、イズニさんは気怠げにリビングのソファーにもたれかかっていた。

 紗夜の言葉を、大國さんは笑顔を浮かべながら否定する。

「いいえ。タイムパラドックスは起こりません。それは今の時代より、遥か未来で数学的に証明されているものですよ!」

「たとえそうであったとしても、ボクらにその証明の積み重ねは、理解できないだろう? 何かしらの常識が定着するには、本来時間がかかるものだ。だとするのであれば、僕らがそれを納得するには、それ相応の時間と余裕が必要になってくるといのは、逆に未来で過去に経験則として判明しているのではないかな?」

「……紗夜ちゃんは、何が言いたいんですか?」

 そう言った大國さんに向かい、紗夜は髪をなびかせながら、こういった。

 

「だから、何度も言っているだろう? 娃を、もう一つの『デバイス』に蘇らせろ。そうすれば、お前が証明したいと思っていることを、漣が求めていることを、ボクが両方叶えてやろう」

 

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