玄関の扉を開けると、想像通りの人物が、そこに立っていた。

「遅いぞ、漣。お前の想い人の入れ物を、届けに来てやったというのに」

「運んでくるの、だるー」

 紗夜とイズニさんは、かなり大きめな、クーラーボックスみたいなものを脇に置きながら、そう言った。

 そのクーラーボックスみたいなものには車輪がつけられており、長めの取手を持って、そこを引っ張って運べる仕様となっている。

 あの中に、娃の体が入っているのだ。

 紗夜は、以前言っていた通り、体が出来たから、家まで届けてくれたのだ。

 それを見て、僕は申し訳なさに押しつぶされそうになった。

 ……わざわざ届けてもらったけど、でも、この体を使う必要は、もうなくなっちゃったな。

 そう思っている僕の心中を察しているはずもないのだけれど、紗夜が怪訝そうに口を開いた。

「何だ? ずいぶん暗そうな顔をしているな。愛しい人がやって来たんだから、もっと嬉しそうな顔をしろよ」

「どうせ、二人の姉の中を取り持つのに、失敗したんでしょ? あーあ、そういう優柔不断さ、マジでだるー」

「……とりあえず、中に入ってよ。状況を説明するからさ」

 そう言って僕は、幼馴染と異世界人を、リビングに案内する。

 突然現れた来訪者に、未来人は驚きの表情を浮かべ、宇宙人は相変わらずの無表情だった。

「えっと、その、どちらの方かな? 漣くん」

「僕の、幼馴染の紗夜と、異世界人のイズニさんですよ」

 そこから僕は、未来人に宇宙人、幼馴染に異世界人という、全く異色の四人について紹介する。そして、それぞれのペアで、何を行おうとしていたのかも。

 大國さんは、娃の体を作ろうとしていた所で、一瞬眉を寄せたが、それもすぐにいつもの笑顔に消えていった。

「娃ちゃんの体を作ろう、だなんて、かなりビックリしたよ! でも、肝心の娃ちゃんが、もう私たちに反応しなくなってるんだから、問題ないよね! うん! タイムパラドックスは、発生しようもない状況だよねっ!」

「一つ、ボクからも質問があるんだが、いいか?」

「はい、どうぞ? 紗夜ちゃん!」

 右手を挙げる紗夜に向かって、大國さんが笑顔でそう言った。

 その笑顔を受けて、紗夜は僅かに首を傾げる。

「ボクの記憶が確かなら、まだ『デバイス』は一つ、残っていたよな?」

「うん、そうだね!」

 その問いに、大國さんは大きくうなずいた。

 未来人が言っている通り、『デバイス』はあと一つ残っている。

 ……娃Cを蘇らせて、すぐにフォーマットした『デバイス』が、あるはずだからね。

 そう思うのと同時に、僕は紗夜が何をしようとしているのか、気が付いた。それはあの理科室の夜、僕が行おうとしていたあの方法を、彼女が実施しようとしているのだということに。

 だから僕は焦りながら、口を開く。

「紗夜。それは――」

 

「なら、その余った『デバイス』に、もう一度娃を蘇らせてもらえないものかな?」

 

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