それは――

「それは、もう人間じゃないんじゃないんですか?」

「一度死んで蘇った人間って聞いて、漣くんは最初に何を思い浮かべる?」

 そんなの、決まっている。

 ゾンビだ。

 ナミネさんやイズニさんが見ていたような、ゾンビ映画に出てくる、あの存在だ。

 そしてゾンビの中には、他のゾンビと合体して、自分の体を巨大化させるものもいたり、手の数を増やしたりするものもいる。

「でもさ、漣くん。そんなに深く考えなくても、いいんじゃないかな? 体が拡張されるって、今の時代にも普通に行われていることじゃない?」

「僕の、この時代にも?」

「うん! だって、手足をなくした人が、義手や義足をつけて、体を拡張させているでしょ? 体が拡張されても、人間の脳がそれに適応さえしちゃえば、全然問題ないよ! だって、たかが一つ、体が増えるだけじゃない!」

 未来では、それが当たり前なのだろうか?

 腕が増えたり、自分の体がもう一つ増えるだなんて。

 ……確かに、自分がもう一人いてくれたらいいな、って考えたことは、実際あったけど。

 自分の代わりにテスト勉強をしてもらったり、マラソン大会を代わりに走ってもらえたら、もう一人の自分に辛い思いを肩代わりしてもらえたら、なんて考えたことがある人は、一人や二人ではないはずだ。

 でもその考え方は、もう一人の自分が、その辛さを引き受けてくれると思っているから、そういう結論になるのだ。

 自分の体がもう一つ増えても、結局勉強するのも、走るもの、自分自身だ。むしろ、体が増えたことで、やらないといけないことも、増えてしまったように感じてしまう。

「じゃあ、どうする? 漣くん」

「どうする、って言われても……」

『デバイス』に表現されている娃たちは、今の会話を聞いても、何も言葉を発しない。僕らの会話に何か思う所があるからなのか、それとも僕にもう一人の自分を消す選択を無言で求めているのか、たかが体が一つしかない僕には、彼女たちの心情を推し量るすべが存在していなかった。

 何も言えないでいる僕の代わりに、別の所から言葉が聞こえてくる。

 

「自分は、提言すべき代替案を持っている」

 

 そう言ってやって来たのは、ナミネさんだった。無表情の彼女の手は、TSUTAYAのレンタル品を入れるための袋が握られている。また、映画でも借りてきたのだろう。

 宇宙人はリビングに集まっている僕らを見渡した後、大國さんに向かって手を差し出した。

「『デバイス』は、まだ所有していたな?」

「うん! フォーマットも終わっているよ!」

「それを貰い受けたい」

「いいよ! は、ナミネさん!」

 そう言って、大國さんは銀色のサイコロを二、三まわり大きくしたような正方形の『デバイス』をナミネさんに差し出した。

 それを受け取る宇宙人を見ながら、僕は疑問を投げかけようと、口を開く。

「あの、代替案って、何を、ちょっ、ど、どうしたんですか、ナミネさん!」

 ナミネさんが持っているという案を聞こうとした所で、僕は突如彼女に腕を捕まれて、引っ張られていく。やがて辿り着いたのは娃の部屋、そして骨箱の前までやって来た。そして彼女は、僕に無理やり『デバイス』を握らせる。

 その行動の意味に気づいた時、脊髄に液体窒素をぶちまけられたかのような悪寒が、僕の全身を駆け巡った。

 ……まさかっ!

「ちょ、待ってください、ナミネさん! まさかあなたは――」

 

「エントロピーを抽出。格納。成功した」

 

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