生きていたときと、同じ姿で。

 生身の肉体を持つ娃と、また一緒に過ごせる方法が、あるはずなのだ。

 大國さんの授業の成績? ナミネさんたちが結んだという契約?

 知るかよ、そんなこと。

 僕は僕だけの、僕自身の大切なモノのためなら、他の全てを、切り捨てることが出来る。

 僕の決意を知った紗夜は生唾を飲み込むと、挑むようにこちらを睨む。

「……でも、どうするんだ? 漣。未来人の肩を持つわけじゃないけど、娃は死んだ。その未来は、確定しているんだろ? その事実を揺るがさない、ギリギリの範囲っていうことで、娃をAIとして蘇らせたわけなんだから」

 その言葉に、僕はうなずく。

「そうだね。そもそも、タイムパラドックスは発生しない。それは、未来で証明されている。だから、その事実を動かすことは、出来ないんだ」

 そう言った僕を、紗夜がため息を吐きながら一瞥する。

「だったら、お前も自分が何を言っているのか、わかっているんだろ? 生身の人間を蘇らせるような行動は、行えないか、失敗するんだぞ!」

「そうだね、紗夜。この地球に住む、この世界の時間軸にそって生きている僕らなら、そうだと思うよ」

 その僕の言葉に、紗夜は弾かれたように顔を上げた。

 驚愕の表情を浮かべる幼馴染に向かって、僕は口を開く。

「『異世界があるんだったら、未来人だってこの過去に来てもいいし、何なら宇宙人がやって来たっておかしくない』お前が言った言葉だぞ? 紗夜」

 わなわなと口を震わせながら、幼馴染は、僕から一歩距離を取る。

「まさか、お前、異世界人に娃を蘇らせる手伝いをさせよう、っていうのか?」

 しかし、紗夜はすぐに、首を振った。

「でも、ボクらとは違う世界の住人を呼んだところで、この世界の時間に来れば、同じ世界線に乗ることになる。やっぱり、タイムパラドックスは起こせないっていう未来は超えられないぞ!」

「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」

 それは、クラークの三法則の一つだ。

 でもそれは、逆の意味合いも含んでいる。

「なら、十分に体系化された魔術技術は、科学と区別できないはずだ。そうだろう? 紗夜」

 そして僕は、幼馴染の方へ、一歩歩み寄る。

「だから僕が呼びたい異世界人は、タイムパラドックスが起こらない、という科学を塗り替えるだけの魔法や魔術理論を持ち得る、そんな存在なんだよ!」

 大昔は世界は平面だったし、宇宙の星々は地球を中心に回っていた。

 過去に提唱された理論は、更に未来では否定されることだって、普通にありえる。

 ……だったら、更に未来で証明されればいい。タイムパラドックスは、やっぱり起こるんだって。かつて過去の理論が否定されたように、大國さんたちの未来が否定される過去につながる、そんな可能性を持つ異世界人を呼べばいい。

 これはいわば、理論の潰し合い。概念の殴り合いだ。

 大國さんがやって来た未来で証明されているもの(タイムパラドックスは起こならい)が、彼女の更に未来で覆される(タイムパラドックスは起こり得る)のであれば、僕の生きているこの時代でタイムパラドックスが発生しても、何ら矛盾は生じない。

 だから僕は今、渇望している。

 タイムパラドックスは起こせないという確立された理論を、かつてそんな事も言われていたよね、と過去にしてしまう概念をこの地球上に出現させることを。

 そのために――

 

「紗夜。異世界との交流、成功させてくれ」

 

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