大國さんの発言には、今の今まで驚かされっぱなしだった。だから、呆れはするものの、もうこれ以上驚かさることはないだろうと、そう思っていた。

 ……でも、これは反則何じゃないか?

「う、宇宙人、です、か?」

「そう! 宇宙人!」

「……娃をAIとして蘇らせれる宇宙人と、未来の方々は知り合いなんですか?」

「知り合いっていうか、契約みたいなものがあってね! 色々協力してもらえることになってるんだ」

「そう、なんですか。って、ちょっと待ってください。その契約って、未来で結んだものなんですよね?」

 大國さんたち未来人が生活していた時間軸で宇宙人と何かしらの契約を結んでいたとしても、今僕らがいるのはその契約を結ぶ前の、過去にあたる。

 これから未来で結ぶ契約を、宇宙人が守ってくれる保証なんてまったくない。それどころか、契約のけの字もこの時代には存在していないのだ。過去にやってきた大國さんの呼び出しに、宇宙人が応えてくれるとは思えなかった。

 そんな僕の疑問が顔に出ていたのか、大國さんは大丈夫大丈夫と言わんばかりに、大きくうなずいた。

「心配しないで、漣くん! 彼らは情報生命体で、特定の手順を踏むと呼び出しに応じてくれて、ある範囲内で協力してもらえるの。その方法というか、手順を教えてもらうっていうのが、彼らと結んだ契約なんだよね! プログラムの関数みたいなもの、いや、オブジェクト指向って言ったほうがいいのかな?」

「……その辺りの例え話はよくわかりませんが、つまり、宇宙人の方にとって契約を結ぶ前の、過去のこの時代であっても、娃をAI化して蘇らせるのに、大國さんの呼び出しに宇宙人の方は応じてくれて、協力してくれる、ってことなんですね?」

「そうだよ! さっきも言ったけど、その宇宙人は情報生命体なの。だから同じ様な情報処理のプロセスを経ることで、娃ちゃんという人間を、情報生命体として表現することが可能になるんだ!」

「そう、ですか」

 原理や理屈はさっぱりわからないが、娃をAIとして蘇らせるという言葉に、偽りはないようだ。

 だとすると、残る問題は一体どうやってその宇宙人を呼び出すのか? ということなのだけれど、そう疑問を感じていた僕に向かい、大國さんが懐からある紙切れを取り出して、それをこちらに向かって差し出した。

「はい、これ!」

「なんですか? これ」

 訝しげに、僕はその髪を受取る。その内容を一瞥し、疑問を持った僕に向かい、大國さんは朗らかに笑う。

「映画のリストだよ!」

「……いや、だからこのリストをどうすればいいんですか? って話ですよ!」

「集めて欲しいんだ! このリストに載っている映画を集めてある一定の処理をかけると、宇宙人を呼び出せることになってるの」

 そう言われて、僕は手渡されたリストへ視線を走らせる。リストは、こんな一覧になっていた。

 

『らせん階段』

『ハムナプトラ 失われた砂漠の都』

『廃墟の群盗』

『無花果の森』

『パッション』

『トランセンデンス』

『インターステラー』

『エルミタージュ幻想』

『天使(1937年)』

『あじさいの歌』

『ナザレのイエス』

 

 リストには、ジャンルも年代もバラバラの映画のリストが並んでいた。

 僕はリストから顔を上げて、大國さんへ疑問の言葉を投げかける。

「映画を集めるって、データで集めればいいんですよね? ネトフリとかアマプラを当たればいいのかな?」

「ネットで配信されてない映画もあるから、ブルーレイとかのディスクで集めざるを得ないと思うよ!」

「しれっとかなり大変なことを言いましたね!」

 大國さんの言葉を信じるのであれば、ブルーレイどころかDVD、下手するとVHSでしか存在しないものもあるかもしれない。何れにせよ、ネットでボタンひとつ押せばかき集めれるものでもないみたいだ。

 ……プレミア価格になってるやつが混じってたら、どうしよう。

 ネットオークションなどの利用も視野に入れると、軍資金が心許なさすぎる。娃の復活のためとはいえ、元手がなければそのスタートラインにすら立てないのだ。

 少し悩んだ後、僕は大國さんに向かて口を開いた。

「このリストにある映画は、なんとか集めようと思いますけど、そんな明日までに全部揃ってます! みたいなことはお約束出来ません」

「うん、それで全然構わないよ! どうせ私も行くとこないから、ここで暫くお邪魔させてもらおうと思ってるしね」

「……いや、だから何故そんな突然前フリなく凄いキーワードばかり口に出来るんですか! 僕の家に泊まってくつもりなんですか? 正気ですか?」

 そう言うと、大國さんは心外だとばかりに口を開く。

「むしろ、よく考えてみてよ、漣くん。今の私、君たちにしてみれば住所不定のただの不審者だよ? ホテルの予約とか取れると思う?」

「予約、僕がしましょうか?」

「高校生なら、親権者の同意が必要になるよね!」

「……なるほど。確かに、難しそうですね」

「でしょでしょ? それに、こんな楽しそうなことをホテルで過ごすだけだなんて、もったいないよ! せっかく過去に来てるんだから、楽しまないとねっ!」

「そんな、卒業旅行みたいなノリでいられても……」

 そう言った後、僕は僅かに考えて、口を開く。

「AIで蘇らせられるのは、娃だけなんですか?」

「そうだなぁ。宇宙人に聞いてみないとわからないけど、多分無理だと思うよ。漣くんのご両親は、亡くなってから時間が経ちすぎてて、情報量が残ってないと思うからね」

「……そうですか」

「ま、そんなわけで、私暫くこの家で過ごすことになるから! だからその、洗面所から持ってきた酸性の洗剤から手を話して欲しいな」

 その言葉に、僕の動きが固まる。一酸化炭素中毒を生み出す可能性のあるその存在から手を話すと、僕は大國さんへ小さくつぶやいた。

「……気づいてたんですか?」

「一応、榧木娃復活に際して、漣くんの情報も閲覧してきたからね!」

「……なんだか、これからここで暮らす大國さんと僕の間に、既に上下関係みたいなものが出来た気がするんですけど」

「そんなことないよ! 私はあくまで文字情報ベースでしか漣くんのことを知らないし。それに、この後宇宙人も来るんだからね!」

 ……この調子だと、宇宙人も家に住み着きそうだな。

 大國さんは、今後この家で過ごすための寝床などを用意したりするというので、両親が生きていた時に使っている部屋へ向かい、ベッドなどの調整をし始めた。

 

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