大國さんの、言っている言葉の意味は、理解できた。AIとして、娃が蘇るというのも、なんとなくイメージは出来る。

 でも――

「な、何で、わざわざAIで蘇らせるんですか?」

「だって、死んでた人間が、その辺を普通に歩いているのって、おかしいでしょ?」

 それは全くその通りなのだけれど、それを大國さんが言葉にするのに、僕はとてつもなく反感を覚えてしまう。

「……未来人のあなたが、突然そんな常識的なことを言うんですね」

「そりゃそうだよ! 生身の人間を蘇らせるだなんて、出来ないよ! だって未来では既に死んでるんだから、その未来を変える行いは誰も出来ないんだからさっ!」

 ……そうだった。大國さんがこの時代でやろうとしていることは、あくまで未来が変えられないという証明をするためだ。

 そしてそうした行動を、大國さん以外の人が既に実証している。未来を変えることは、タイムパラドックスは、起こらない。

 逆に言えば、タイムパラドックスが発生する行動は、行えないか、失敗する。

 既に死んでいる人間を過去に戻って蘇らせるだなんて、タイムパラドックスが発生するに決まってる。だから生身の人間を蘇らせることは出来ない。

 つまり、僕は既に答えにたどり着いていたのだ。

 ……結局、もう一度、娃の顔を見ることは、出来ないってことか。

「大國さんが姉を、娃を、AIとして蘇らせようとしているのは、理解しました。でも、そんなプログラムされたみたいな存在で、本当に娃が蘇ったって言えるんですかね? そんな、機械みたいな、ゼロとイチの概念だけになった存在が、娃だって言えるんでしょうか?」

 そう言った僕に向かって、大國さんが不思議そうな顔をしながら、問いかけてくる。

「逆に、漣くんは娃ちゃんがどう蘇るのが良かったの?」

「どうって、そりゃ――」

「体があればいいの? でも、AIで蘇った娃ちゃんを、金属の塊みたいな機械の中で動かしたとしても、きっと今みたいに反発したよね? なら、シリコンとかで外見を生きていた頃の娃ちゃんそっくりにしたら? これなら、受け入れられる? それとも、やっぱり生身の体がないと駄目なの? どうして、AIだと駄目? セックスが出来ないから?」

「ち、違いますよ! 娃とは、そういう関係は、持ってませんでしたし」

 それでも、手を握ったり、頭を撫でたりしたことはある。娃に触れたときに感じた温かみを、今でも僕は鮮明に覚えていた。

「でも、やっぱり僕は、もう一度娃と会いたいですよ。もう一度彼女の手を取って、髪に触れて、その瞳に、自分が映っている所を、見てみたいです」

 僕の言葉を聞いた大國さんは、大きくうなずいた。

「なるほど。漣くんの気持ちは、わかったよ。でも、残念だけど、私はそうした君の願いを叶えて上げることは出来ない。私に出来るのは、娃ちゃんをAIとして蘇らせることだけだからさ!」

 そう言って大國さんは、僕から一歩後ろに下がり、距離を取った。そして、薄く笑う。

「なら、やめちゃう?」

「え?」

「やめちゃおうっか?」

 そう言って、大國さんが僕に向かって背を向ける。

「体がない状態の娃ちゃんは、戻ってこないんだもの。なら、AIで蘇らせるの、やめちゃおうか?」

「それは――」

「もう一度聞こうか? 漣くん」

 そして大國さんはこちらに振り向くと、先程僕に放った言葉を口にした。

「話したくないの?」

 ……それは。

「お姉さんと。娃ちゃんと、漣くんは、もう一度話したくないの?」

 ……それは、ずるいですよ、大國さん。

 そんなもの、答えは既に出ている。話せなかったこの夏の過ごし方を、果たせなかった夏休みの行き先を、僕はどうしても娃と話したかった。どうでもいい会話だったからこそ、その会話をすることが出来ずに死に別れたのが、どうしようもなく僕の心残りとなっている。

 だから僕は、口を開いた。

「……その答えは、もう言ってますよ」

「うん、そうだよね!」

 大國さんは、そう来なくっちゃ、とでも言わんばかりに笑みを浮かべる。その笑みを見ながら、僕は疑問の言葉を紡ぐ。

「でも、娃をAIで蘇らせるって、どうやってやるんですか?」

 アニメやマンガで見かけた人間をAIにするような設定では、本人の脳の情報を読み取って、そのままAIとして再現する方法なんかがあった気がする。

 ……でも、もう娃の脳は、残ってない。

 今日、姉の体は火葬場で焼かれたのだ。

 娃だった存在が焼かれ、骨と灰になり、それが入った骨箱を僕は一瞥する。

 まさか、燃えカスから人間の脳だけ修復する方法が未来では確立されているのだろうか? でも、そんな技術が有るのであれば、死んだ人間を蘇らせることだって出来てしまえるはずだ。

 それらの疑問の答えを知るために、僕は改めて大國さんに視線を送る。やがて未来人である彼女の唇が動き、こう言葉を紡いだ。

「いやぁ、それが私も、よくわからないんだよね!」

「……は? え、いや、え? で、でも大國さん、さっきAIで蘇らせるって言いましたよね? 僕の勘違いじゃないですよね?」

「うん、それは漣くん、間違ってないよ!」

 その言葉を聞いて、僕は声を荒げる。

「だったら、何で大國さんがAIで蘇らせる方法を知らないんですか! そんな状態で、どうやって娃を蘇らせるって言うんですかっ!」

 狼狽する僕を、まぁまぁとなだめるように、大國さんは両手を広げる。

「大丈夫だよ、漣くん! 私はその方法を知らないけれど、その方法を知っている人なら知っているからさっ!」

「ま、また新しい未来人でもやって来るんですか?」

 混乱する僕に向かい、大國さんは大丈夫とでも言うように、口を開く。

「違うよ、漣くん。呼ぶのは、未来人なんかじゃないの!」

 そう言った後、大國さんはとんでもないことを言い始めた。

 

「呼ぶのは、未来人じゃなくて、宇宙人なのっ!」

 

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