……。

 …………。

 ………………。

 ……………………は?

「え? は? 出来な、い? え? え、ちょ、ちょっと待って? え、聞き間違い? 僕の、聞き間違い、かな? あれ、さっき確かに、大國さん、言ってたよね? 人間を蘇らせるって。それが攻めた行動だ、って」

「違うよ、漣くん。私は人間ではなく、榧木娃を蘇らせる、って言ったんだよ?」

 意味が、わからない。

「いや、それ、どこが違うんですか! 娃を蘇らせるって、人間を蘇らせれるから、そういう話になるんですよね?」

「え? 全然違うけど?」

「……おちょくってるんですか? 大國さん」

 自称未来人の言葉に、僕の心は掻き乱されっぱなしだ。それでも、彼女の言葉の意味がさっぱりわからないというのは、まぁ許せなくもないだろう。こういう人もいるんだよな、と無理やり納得させることが出来る。

 でも、娃のことは、無理だ。

 今日、僕は自分の姉であり、恋人であった娃を焼いてきた。炭と骨だけになった娃は、骨箱の中の骨壷に収まっている。そんな彼女を、蘇らせることが出来ると言ったり、出来ないと言ったりするのは、どう考えても悪意のある発言としか思えない。

 邪悪で劣悪で、そして醜悪としか言いようがない。

「娃と、もう一度話したくないのか? って聞いたのは、大國さんの方ですよね? 会いたいですよ。そりゃ、会いたいでしょうよ!」

 自分の内から、これほどの激情が湧き上がってくるのに自分でも驚いてしまう。発せられた言葉も、思った以上に大きかった。

 眼前の大國さんも、びっくりした様子で僕の方を見ている。

 でもその驚きを消し去るが如く、僕の口からは次々に言葉が発せられていった。

「死んでしまった、まだ話さしたかったことがあった娃と、もう一度会いたいですよ! それなのに、そんな、馬鹿だと思っていても飛びつかざるを得ないような希望を先に掲げたくせに、やっぱり蘇らせれませんだなんて、酷すぎますよっ!」

 そうだ。結局僕は、それで怒っているのだ。

 死んだ娃と、結局もう会えることが出来ないという絶望。

 そしてそんな当たり前の、小学生でもわかるような道理を、一瞬でも捻じ曲げてしまえるのではないか? と考えてしまった、自分の愚かさ。

 この二つに、僕は激しく憤っているのだ。

 だから僕はその怒りを形にしようと、洗面所から持ってきたあるものに手を伸ばす。

 そんな僕を見て、合点がいったとばかりに、大國さんは笑いながら口を開いた。

「ああ、なるほど! そっかそっか。わかった! 私、漣くんとどこですれ違っちゃっていたのか、わかったよ!」

「……すれ違い?」

 動かしていた手を止めて、僕は横目で大國さんを一瞥する。

「すれ違い、っていうか、漣くんの勘違い? みたいなものかな!」

「……僕が、何を勘違いしていたっていうんですか? でも、大國さんは確かに言いましたよね? 娃を蘇らせるって、人間を蘇らせる、って。姉と話したくないのか? って、会いたくないのか?って、聞きましたよね?」

「はい、そこ! そこだよ、漣くん!」

 ビシッ、と人差し指を僕に向けて、大國さんは大仰にうなずく。

「そっかそっか! やっぱりだ! それでさっきから、漣くんと会話が噛み合わなかったんだね」

 そう言った後、自称未来人は、聞き分けのない生徒を優しく嗜める口調で、こう言った。

「いい? 漣くん。繰り返しになるけど、私はね? こう言ったの。人間ではなく、榧木娃を蘇らせる、って。そして、会いたいかどうかは、私は聞いてないよ? 私はね? 話したくないの? って聞いたの」

 そう言われて、僕の頭も急に冷静さを取り戻していった。

 ……確かに、大國さんはそういう言い方をしていたな。

 そして、こうも言っていた。

「それらの意味は、全然違う、とも、言ってましたよね? 大國さん」

「うん、そうだね!」

「……僕には、その差がわからないんですが」

 姉を蘇らせれるということは、人間を蘇らせれるということなんじゃないのだろうか?

 娃と話せるということは、彼女と再びまた会うことが出来るということではないのだろうか?

 そうした疑問に、大國さんが申し訳無さそうな顔で答えを口にする。

「ごめんね? きっと、私が上手く説明出来なかったから、私が言っている蘇らせるという言葉と、漣くんが想像した蘇らせるという言葉の意味合いというか、どういうことをしようとしているのか、っていうイメージが、ズレちゃったんだね」

 その言葉に、僕は訝しげに首を傾げる。

「イメー、ジ?」

「ほら、きっとアレだよね? 漣くんが想像した蘇らせるって、死んだ娃ちゃんが今日灰と骨になった体がまた元通りになった状態で戻ってくるって、そういうのをイメージしてたんだよね?」

 その言葉に、僕は小さくうなずく。

「そう、ですけど。え、逆に、それ以外に蘇らせる方法って、あるんですか?」

「あるよ」

 だから、ズレちゃったんだね、と言って、大國さんは笑った。

「私が言っている蘇らせるっていうのは、漣くんが思い描いているような、生身の人間をそのまま蘇らせるものじゃないの。かつて生きていた人間の、エントロピーだけを蘇らせることを言ってたんだよ」

「エントロ、え、それって、どういう、こととなんですか?」

 なんだか、全く想像できなくなってしまった。さっきまでは、あれほどまでに姉が蘇ったことを想像できていたのに、今ではその欠片すら上手く頭に思い描くことが出来なくなっている。

 そんな僕に向かって、大國さんは人差し指で自分の顎を押さえながら、口を開く。

「そうだねぇ。いわば、情報生命体、みたいなものかな?」

「情報、生命体?」

「うーんと、この時代だと、どう言ったらいいんだろう? あ、AI! AIならわかるかな?」

「それなら、わかりますけど……」

 でも、それはつまり――

 

「つまり私は娃ちゃんを、生身の体を持った人間としてではなく、AIとして蘇らせようとしてるんだよ!」

 

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