その言葉が僕の鼓膜を叩き、蝸牛を介して脳が意味を理解する。理解した瞬間、僕の目の前は暗転した。大國さんが僕の目の前に現れた時から意味のわからなさはゲシュタルト崩壊をするぐらいな有様だったけれども、これは極めつけだ。

 ……娃を、人間を、蘇らせる?

「いや、いやいや、いやいやいやいや! ちょっと、ちょっと待ってよっ!」

「どうしたの? 漣くん。そんなに焦って」

「焦るに決まってるでしょ! 蘇らせる? 人間を? 未来では、そんなことが出来るようになってるの?」

 死者蘇生だなんて、それこそマンガやアニメの世界だ。でも、それ以上に――

「既に死んでいる人間を過去に戻って蘇らせるだなんて、タイムパラドックスが発生するに決まってるじゃないか!」

 大國さんは先程の説明で、タイムトラベラーは自分の意思で行動しても未来は変わらない、と、そういうことを言っていた。そして、それを証明するために、彼女は未来からこの時代にやって来た、とも。

 ……でも、未来で既に死が確定している人間を蘇らせたら、死んでいる人間が生きていることに変わってしまうじゃないか!

 つまり、確実にタイムパラドックスが発生するのだ。たかが学校の課題で高得点を取りたいがための、攻めた行動としては、攻めすぎている。それとも、常に介入するという、調整力に期待をしているのだろうか?

 自分のことではないのに、内心焦る僕を見て、大國さんは満足げに笑っていた。

「うーん、漣くんは思った以上に良い反応をしてくれるね! そうだよ。死んでいる人間を蘇らせてしまったら、タイムパラドックスが発生してしまう。でも、タイムパラドックスが発生しないと証明されているからこそ、この挑戦は意味がある行動に、つまり、攻めた行動になる、ってわけっ!」

「だからって、何で姉を、娃を蘇らせるって話になるんですか! 死者蘇生以外にも、何か別の方法で学校の課題を――」

「話したくないの?」

「……え?」

「お姉さんと。娃ちゃんと、漣くんは、もう一度話したくないの?」

 その言葉に、僕は完全に黙り込んでしまう。

 今まで感じていた、未来を変えてしまうのではないか? という焦燥感は一瞬で消え去り、僕の頭の中には、大國さんが発した疑問の答えで満たされていた。

 話したい。

 話したいに、決まっている。

 もう一度、娃と会いたい。

 彼女の声をもう一度聞きたいし、また一緒に食卓を囲みたい。ベランダの鉢に植える次の花の話だってしたいし、一緒に過ごすはずだった、この夏の過ごし方も相談したい。

 ……そうだ。夏休み、どこに行こうか、娃と、話そうと思っていたんだ。

 でも、その話をする前に、娃は死んだ。自殺した。

 死んでしまった人間と、愛した人ともう一度会いたい。その可能性があるのであれば、誰だってそれに飛びつくだろう。飛びつかざるを得ないだろう。

 だから僕は、先程大國さんに聞いた質問を、繰り返す。

「未来では本当に、死んだ人間を蘇らせることが出来るようになっているんですか?」

 僕の疑問に、大國さんはこちらを真っ直ぐ見つめながら、笑みを浮かべてはっきりとこう口にした。

 

「もちろん! そんなこと、出来るわけないじゃないっ!」

 

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