そう問うと、彼女は小首を傾げた。

「え? どういうこと?」

「そのままの意味ですよ。大國さんが未来人だと仮定して――」

「だから、私は本当に未来からやって来たんだよ!」

「……わかりました。では、その前提で話しますね。大國さんは、なんの目的でこの時代のこの日に、姉を火葬して帰ってきた僕の家にやって来たんですか?」

 そうだ。恋人であり姉である娃の死に、突如現れた意味不明な女性というインパクトで気が動転していたが、そもそも大國さんがこの家のベランダに訪れた理由を、俺は一度たりとも聞いていなかったのだ。

「もう一度聞きましょう。大國さんは、どうしてわざわざ未来からやって来たんですか? そして、俺と姉の関係をご存知だったということは、俺の前には、狙って現れたんですよね? それは、何故ですか?」

 そう言うと、彼女は大きく頷き、少し嬉しそうに俺に向かって口を開く。

「いい質問だね、漣くん!」

 そう言った後、大國さんは髪を拭い終えた後、バスタオルを畳みながら、こちらを一瞥する。

「私は学校の課題をこなすために、この時代の、そして君の下へとやって来たんだよ!」

 未来にも学校はあるのだろうか? その学校の授業はどんなものがあるんだろうか?

 そういった疑問が出てくるけれど、僕が一番気になった単語は、これだった。

「課題? どんな課題なんですか?」

「うーん、どこから説明しようかな? あ、漣くんは、SFモノの映画とか小説は読んだりするかな?」

「……まぁ、多少は。タイムリープものとか、流行ってマンガやアニメも結構出てますし」

「あ、それなら世界線とか、平行世界とか知ってる?」

 それから、と言って、更に大國さんは言葉を紡ぐ。

「タイムパラドックスっていう単語は、知ってるかな?」

 その言葉に、僕はうなずく。

「ええ、なんとなくは。あれですよね? 過去の出来事を変えてしまうと、未来も変わってしまう、みたいな」

「そうそう。親殺しのパラドックスとか、違う未来のパラレルワールドとかが有名だよね?」

「……その話が、大國さんがここに訪れた理由になってるんですか?」

「うん、そうだよ!」

 そう言って朗らかに笑った後、大國さんはこう言った。

 

「私は、タイムパラドックスは発生しないことを証明しに来たんだよ!」

 

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