③
「……は?」
思わず、僕は彼女の言葉に反応してしまう。意味不明だ意味不明だと思っていたけれど、これはちょっと、この人、とてつもないほどヤバいやつなんじゃないのか?
……いや、未来人って。今どき、冗談や嘘でも、もっとまともな内容にするぞ?
そう思っていると、大國と名乗ったその女性は、少し不満げな表情を浮かべる。
『あ、その顔! 私の話、信じてないなっ!
「……いや、信じろって言われても、信じれるわけないでしょ」
『えー、何で? 私の言うこと、信じられない?』
「信じれるわけないでしょ、そんなヤバげな妄想に!」
『あ、妄想っていった! 妄想じゃないよ! 私は本当に、この星にタイムスリップしてきたんだってっ!』
「今の話を聞いて、妄想だと思わない人はいませんよ。何言ってるんですか? 本当に」
『んもー! 何でそんな酷いこと言うかな? 漣くんはっ!』
「っていうか、何であなた、僕の名前を知ってるんですか?」
『だからそれは、私が未来から――』
そういった後、大國さんは明暗だと言わんばかりに、両手を叩く。
『そうだ! じゃあ、こうしよう? 私がこれから、未来やらやって来た人しか知り得ないような内容を言っていくよ! その内容で、私が未来人だって判断してね? あ、でも、この時代だと、何の話がいいんだろう?』
「いや、何を勝手に決めて――」
『由伸選手は、サイヤング賞を受賞します!』
「……え? 何の話?」
『あ、野球興味ないんだっけ? 漣くん』
「そういえば、大國さん。僕がカーテン開けるって、知りませんでしたよね? 知ってたらガラスを割ろうだなんて発想出てこないと思うんですけど」
勢いよく言葉を叩き込まれて会話のペースを相手に譲ってしまいそうになったが、冷静になればおかしな点は多々出てくる。
矛盾を指摘した僕に向かって、妄言を繰り返す女性は、更に口を開いた。
『そんなこと言われたって、私だって、過去のことすべて覚えているわけじゃないからね! 君だって、歴史のテスト全部満点じゃないでしょ?』
「いや、それはそうですけど」
『うーんと、あ! じゃあ、これなんかどうかな?』
そういった大國さんに向けて、僕はため息を吐いた。
「いえ、もう、もういいです。結構です。もう、帰ってくださいよ。警察には通報しないで、帰ってください。僕にもこれから、やることが――」
『駄目だよ。だって私が帰ったら、漣くん、自殺を本当に実行しようとするでしょ?』
その言葉に、僕は一瞬息を詰める。そんな僕の様子を横において、大國さんは気にした様子もなく新たに口を開いた。
『それじゃ私、困るんだよ。まだ漣くんに死なれるのは、困るなぁ。でも、少なくとも君は死ぬことにはまだなってないから、大丈夫かな? あ、いいこと思いついた! じゃあじゃあ、漣くんの恋愛関連の話にしようか? 未来の自分の結婚相手、興味あるよね? 漣くんっ!』
「……ないですよ、そんなの」
だって今、僕は新たに誰かを好きになることを、全く想像出来なくなっているのだから。
でも相変わらず大國さんは自分のペースで話を進めるべく、言葉を紡ぎ出した。
『漣くんの将来の結婚相手はね? 君の幼馴染の、鳩谷さんだよ!』
「……紗夜が、僕の、結婚相手?」
リムレスの眼鏡をかける、ある時から陰鬱な雰囲気をまとわせるようになった少女の姿を脳裏に思い浮かべ、僕は苦笑いを浮かべながら首を振る。
「ないですよ。紗夜とだけは、絶対にない」
『そう思うじゃない? でも、そーじゃないのが、恋愛の面白い所なんだなぁ、これが!』
大國さんは、自信満々に胸を張る。でも、紗夜だけは、紗夜とだけは、僕は絶対にそういう関係になれないし、ならない。
そもそも――
「僕は、結婚どころか、これから誰かと恋人関係になることすらないんじゃないか? って思ってるんです。そんな僕が、結婚なんて、到底無理じゃないですか?」
『それは、漣くんの恋人が死んじゃったから?』
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