第37話
「断風!」
ダリウスは右手刀を振りかざし、黒き斬撃がニルを襲う。
「絶覇」
同じく右手刀を振りかざし、覇動を纏った右手刀で黒き斬撃を弾いた。
目を見開き、ダリウスは確認する様に何度も何度も断風を放っていく。
しかし、事実は変わらず、何度もニルの覇動を纏った右手刀に弾かれていく。
「これがアルカードか――っ!」
通常の人間ならば圧倒出来る力。
そのはずが、自分は逆の立場になっている。
ダリウスは数秒間、考える様に黙り込んだ。
「――やるしか無いのか」
大きく息を吐いた。
それは自身の答えを出した様に見える。
一瞬、ダリウスの魔力は止まった。
まるで、性質を切り替える様に。
「魔装(マーラ)」
詠唱の様に唱えたその言葉。
瞬間。
ダリウスから禍々しい魔力が解放され、それはダリウスを包み込んだ。
黒い容姿。
左右の頭部に生えた白い角。
赤い瞳。
畳まれた大きな黒い翼。
人ならざるその姿は、魔人と呼ばれる種族の様だった。
魔人。
千年前に世界を滅ぼそうとした種族。
数多の国を滅ぼし、この世界を統べようとした種族。
現世とは異なる場所からやってきた者たち。
世界のすべてが彼らに滅ぼさせる前にニルは世界を滅ぼしたのだ。
「その魔力は――」
変貌したダリウスに向け、ニルは睨む様に見つめた。
自身が最も嫌うその姿。
世界を滅ぼすその力。
「やはり、アルカード。お前はこの力を知っているのか」
「ああ、知っているとも。――世界を滅ぼす力だよ」
自然と口調が尖ってしまっていた。
「この力こそ、神に等しき力だ。そうだよ、アルカード。神には神を――」
神に等しき力。
それは神に等しき、グレイニル・アルカードに対抗するために。
「・・・・・・そうか。僕は神なのか」
自覚は何一つ無いけど。
しかし、僕は神にも等しき行為をしたのだ。
「そりゃそうさ。覇王アルカード。世界を終わらせた、天災であり邪神よ」
「邪神・・・・・・か。散々な言われようだね」
当時は、覇王。
歴史では、天災。
今では、邪神。
どれも良い呼び名では無いだろう。
「まあ、それも過去の邪神。これからは――」
ダリウスはそう言うと、畳んでいた翼を大きく広げた。
「――私が邪神となる」
纏うその禍々しい魔力。
ニルの知る限り、それは魔人が纏う魔力だった。
「君は……人間なのかい?」
ダリウスを見上げ、ニルは淡々とした口調で告げる。
「人間――だったが正しいよ」
「だった?」
「ああ、そうさ。もう我は人間では無く――神だよ」
そう言うと黒い翼を動かし、電磁砲よりも高い位置へと飛翔する。
そして、右手を上空へとかざした。
突如、大空は雲に包まれる。
次第にダリウスの右手に黒い魔力が渦を巻き、収束し始める。
その正体こそ、あらゆる物体を風化させる闇属性の魔力だった。
「これは――まずいな」
かつての自身が抱いた危機感。
千年後の今、それと同じ感情を抱いていた。
いったい、何が起きているのか。
どうして、魔人が現世にいるのか。
理由を考えても意味が無かった。
――事実は変わらないのだから。
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