第34話


「異端――」


 その真意はわからなかった。

 しかし、不思議と老人が別格な何かであることを理解する。


 老人は足元の空間を杖で突くと、老人の目の前に白い魔法陣が現れ、そこから白い龍が現れた。


 境界を過ぎた際に現れた青い龍。

 大きさこそは似ているが、本質がそもそも異なっていた。


「さあ、行け」


 淡々としたその言葉に白い龍はアイリスへと襲い掛かる。


「天撃」


 アイリスの言葉と共に白い法撃が白い龍へと向かった。


 直撃。

 しかし、白い龍はあまりダメージを受けていなかった。


「なっ――」


 なぜか。

 先ほどまでは通用した法撃。

 通用しないその事実。


 白い龍が纏う白でありながら禍々しい魔力。

 その魔力影響の様に見えた。


 迫る白い龍を避け、アイリスは後退し、距離を取る。


「あの魔力は――何?」


 現代では感じたことの無い魔力。

 少なくとも、普通の魔力では無い。


「ほう。やはり、この力は通用するのか――君らにも」

 まじまじと眺め、老人は感心した様に頷いた。

「君ら?」


「そう。世界を終焉したアルカード、世界を創造したニルヴァーナ。この世界で最強と言われる二者に通用する力なのだよ――これは」


「最強・・・・・・」


 確かに私たちがやったことは、世界の理を覆したことである。

 必然的にそれが出来るほどの魔力があり、最強と比喩される。


「まあ、どちらにせよ、君は必要な人材だ」

 老人の前に再び現れる白い魔法陣。


 そこから、数十体のカラスの様な白い鳥が出現した。


 白い龍に従う大勢の白い鳥。

 間違いなく、アイリスに敵意を向けていた。


「・・・・・・私もあなたを倒さないといけない」

 老人の後ろにいるカノンとベルセルクに帰るために。


 だから、私は戦う。

 アイリスは目の前の現状に、大きく深呼吸をした。


「白銀弓姫」

 右手を勢い良く外側へ振ると、手元に白銀の弓が出現する。


 白銀の弓を手に取り、弦を引いた。

 放たれる白銀の矢は、前回と同様複数に分岐し、白い鳥へ突き刺さる。


 白い鳥たちは悲鳴の様な鳴き声を挙げ、各々消滅していった。


「――これでも劣勢か」

 老人はその光景に目を見開く。


 アイリスは返事も無く、無言で白い龍向け弦を引いた。


 時間が惜しい。

 こうしている間にも、カノンの魔力が減っている。

 アイリスは無意識のうちに焦っていた。


 白い龍に白銀の矢が当たるが、大きなダメージは無い。

 動ずることなく、アイリスは何回も弦を引き、白銀の矢を何発も放った。


 次第に白銀の矢は白い龍へと突き刺さる。

 数十発放った頃、白い龍は倒れる様に地上へ落下すると、ゆっくりと消滅した。

 

 これで老人の前にはもう召喚獣はいない。


「終わりよ」

 鋭い眼差しを向け、アイリスは白銀の弓を老人へと向けた。


 躊躇いなど、今の私には無い。

 ここで、私が老人を――殺す。

 でなければ、カノンが死んでしまうのだ。

 

 弦を引く指先に魔力を集束させ、解放する様に弦を引いた。

 放たれた白銀の矢は光属性の魔力を纏い、その魔力は鳥の形へと変貌する。


 抵抗も無い。

 白銀の鳥は勢い良く老人へと向かった。


 これで終わり――。


 そう思いアイリスは安堵の息を吐いていた。


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