第32話



 数分前。

 エニシス都市部。


 ニルは北西側へと向かうため、都市の上空を飛翔していた。


「あと少しかな」

 感じる魔力からアイリスの位置は変わっていない。


 魔力変動。

 アイリスの魔力が急に上昇する。


 交戦中なのだ。


「アイリスは誰と戦っているのか――」


 推定する。

 僕と同じく魔法騎士団か、それとも魔導師が。


「どちらにせよ、今のアイリスの敵じゃないよな」


 次第に増大するアイリスの魔力。

 それはかつての彼女、クリス・ニルヴァーナの魔力。

 天創の魔力そのものだった。


「天創の魔力――か」

 かつての僕が彼女のために渡した彼女だけの魔力。


 天地創造の魔力。

 純粋な光属性の魔力を持っていた彼女にしか使えない魔力。

 だから、この世界は再び創造することが出来たのだ。


「彼女が世界を創造出来ていなかったら――」


 千年前のもしもの世界をニルは考えた。


 天創が失敗し、世界が荒野のままで彼女だけが残った世界。

 言葉では書けたが、不思議とその世界は描けなかった。


 それほど、かつての僕は彼女を信用し、信頼していたのだ。


「まあ、それは今も変わらないかな」


 今の僕もアイリスを信用している。

 だから、彼女に先に行ってもらったのだ。


 彼女は自身の友であるカノンを救うため。

 僕は電磁砲を止めるため。


 僕らは千年経った今も、互いの成すべきことのため共闘しているのだ。


「ふふっ」

 彼女と答えは違えど、同じ道を歩いている。

 不思議と笑みが零れた。

「だから、僕は僕のやるべきことをやるさ」

 ニルはそう言うと魔力を開放し、飛翔魔法の速度を速めた。



 彼女は友のために――。


 僕は世界を守るために――。

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