第29話


 アイリスは都市部から北西に位置する大きな湖にいた。


 最後にカノンの魔力を感じたのは、この辺り。

 周囲を見渡しても、森か湖しかない。


「でも・・・・・・」

 アイリスは自身の感覚を疑いつつも、不思議と確信があった。


 大きく息を吸い、もう一度魔力を研ぎ澄ませる。

 やはり、カノンの魔力を感じる。


 ――湖の中心から。


「まさか――」


 驚愕の表情。

 アイリスは戸惑いながらも、小さな水球を湖に放った。


 水球の衝撃により、水面は大きく揺らぐ。

 しかし、湖の中心だけ、波が跳ね返るのだ。

 まるで、支障物に当たる様な波の返り方。


 見えない何かがそこにある。

 アイリスは確信した。


 何かがある上空へと移動すると、それに向け両手をかざす。


「天撃(てんげき)」

 自身の手元に収束する光の魔力。


 数秒後、レーザーとも呼べる光の法撃がアイリスの両手から放たれた。


 光の法撃は水面の当たること無く、何かに激突する。

 次第にその何かを包んでいたものが解け、姿を現した。


 そこにあったのは、高さ数十メートルの巨大砲台。


「これが――電磁砲」

 その巨大な兵器にアイリスは呆然としていた。


 これこそがニルが言っていた電磁砲なのか。

 巨大砲台兵器。


 こんな砲台、いったいどうやって動かすのか――。


 ふとした疑問がアイリスの脳裏に過った。

「――だから、魔力が必要なのか」

 必然と敵がカノンを攫った理由を理解する。


 訳がわかれば、善は急げだ。

 アイリスは砲台が見える箇所向け、翼を動かした。


 砲台がある箇所は吹き抜けになっており、

 砲台の下は操作室の様な部屋となっていた。


「着いた・・・・・・」

 恐る恐る吹き抜け部から侵入する。


 アイリスは操作室手前の床に付くと、白い翼をたたむ様に消滅させた。


 数十メートルの高さの巨大な砲台。

 首を大きく傾け、見上げてしまう。


 これが現代の電磁砲。

 アイリスは、この時代で見るのは初めてだった。


 間違いなくカノンの魔力を感じる。

 どうやら、カノンは操作室の先にいる様だ。


 あと少しの所まで来た。

 もう少しだよ――カノン。


 瞬間。

 数多の気配を察知する。


「その前に・・・・・・か」

 アイリスは目の前の光景に小さくため息をついた。


 その前に私がやるべきこと。

 それは目の前にいる数十人の魔導師たちを倒すこと。


 彼らは先ほど海岸にいた魔法騎士団の魔導師とは少し違って見えた。


 魔法騎士団だろうが、何者だろうが関係無い。

 カノンの元へ行く道を塞ぐ様であれば、私の敵である。

 躊躇と言う単語は、今のアイリスには無かった。


 魔導師たちは明らかな殺意をアイリスに向けている。


 ――だから、容赦はしない。


「業火(ごうか)」

 アイリスの右掌で爆発的に燃え上がる火。


 火球の上位魔法である業火。

 クリスの記憶を取り戻したアイリスは業火を容易に発動していた。


 これこそニルヴァーナが持つ本来の力、本当の魔力なのである。


 迫る業火に魔導師たちは、瞬時に合同の魔法壁を展開する。


 数十人分の魔力が練り込まれた魔法壁。

 業火はその魔法壁と相殺した。


「水仙(すいせん)」

 すぐさま水属性の魔力を込め、地面に触れる。


 魔導師たちのいる中心部から青色の魔法陣が浮かび、渦潮が発生した。

 螺旋状に流れる水流に半数の魔導師が巻き込まれる。


「砂塵(テンペスト)」

 一人の魔導師がそう告げた途端、渦潮は風圧を受けた様に弾け飛んだ。


 刹那。

 灰色の斬撃がアイリスを襲う。


 数ミリの距離でアイリスは避けると、大きく後退した。


 自然と眉間にしわを寄せる。

 アイリスに緊張感が襲った。


 紛れも無い殺意。

 今の斬撃は確実に自身を殺す気でいたのだ。


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