第28話
ニルは気持ちを切り替える様に瞼を閉じると、視線を地上へと戻す。
大きく息を吐き、黒い洋剣を構えると自身の魔力を注ぎ込んだ。
魔剣・ダモクレス。
自身の魔力と共にドラゴニス家の魔導書に封印されていた宝具。
「さあ、行くよ」
ニルは笑みを浮かべると、再び空と羽ばたいた。
―――
グレイニル・アルカードは、
魔剣・ダモクレスを用いて、大陸を制覇したそうだ。
―――
ニルの中で浮かんだその一文。
客観的な記憶だった。
魔剣を空へ掲げると、刀身の先に禍々しい魔力が集束する。
闇属性の魔力。
人は間接的にこれを終創の魔力と呼んでいた。
漆黒に染まる大空。
まるで、世界の終わりの様だった。
「さあ、行くよ。ネフィタリス」
オシリスであり、ネフィタリス。
そして、ハルジオン。
君であり、君では無い者へ。
「な、何だ・・・・・・その魔力は――。これはまるで――」
ネフィタリスは声を震わせていた。
「まるで、あの頃の魔力じゃないか――っ」
「そうか――。そうなんだね」
だから、少し懐かしい感覚があるのか。
振りかざす。
放たれた黒い斬撃はかまいたちの様に無数に分裂し、向かって行く。
――すべて、聖剣自身へと向けて。
「くっ!」
隙無く降り注ぐ黒い斬撃にネフィタリスは防戦一方になる。
やがて、黒い斬撃は聖剣を弾いた。
その拍子で、ネフィタリスの身体は宙に浮く。
その瞬間、ニルは即座に息を吸った。
「魔装天撃(ダモクレス)」
一閃――。
気がつけば、ニルは魔剣を右に振っていた。
水平の黒い一筋の線がネフィタリスに描かれる。
「なっ――?」
しかしながら、ネフィタリス――オシリスの身体には傷一つ無かった。
「じゃあね――ネフィタリス」
ニルが魔剣を左腰にしまうと、聖剣・ネフィタリスの刀身は砕け散る。
オシリスの周りに漂う光の砂。
砕け散った聖剣の欠片だった。
力尽きた様にオシリスはその場にうつ伏せに倒れる。
ニルはゆっくりとオシリスへ近づくと、地面に落ちた刀身の無い柄へ右手をかざした。
「回帰(リグレクション)」
魔法の様なその言葉。
途端に漂う光の砂は柄へと戻って行く。
数秒後、ニルの手には聖剣だったものがあった。
聖剣だったもの。
形状は大剣では無く、洋剣の大きさになっていた。
「これは僕が持っておこう――来るべき未来のために」
そう言って息を吐くと、聖剣は転移した様に消滅する。
目の前に倒れるエニシス魔法騎士団長、オシリス・エニシス。
過程はどうであれ、これで戦いは終わったのだ。
「オシリス、そのうち意識は戻るよ。次に会う時は、君自身の力で戦おう」
意識の無いオシリスに背を向け、ニルは空へと飛翔する。
これで僕とオシリスの戦いは終わったのだ。
「どうやら、この事案に国は無関係の様だね」
アイリスの魔力がする方角。
都市の北西側へとニルは向かった。
魔法騎士団がアルカードを敵とみなし、応戦した。
今までの出来事はそれ以上でも、それ以下でも無い。
どうやら、電磁砲は彼らの知らない事実の様だ。
「この国で何が起きているのか」
電磁砲の様な巨大な兵器。
そんなのが国にあって、魔法騎士団が気づかない訳が無いだろう。
それか、彼らが気づけない仕組みが存在するのか。
「・・・・・・まあ、そんなこと彼女を救ってからだろう」
最優先事項が完遂されてから。
その後、いくらでも考えれば良い。
今の自身が持てる最速でアイリスへと向かって行く。
回復していく魔力。
徐々にニルはかつての感覚を思い出していた――。
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