第27話


「我はネフィタリス――。龍殺しの聖剣なり」


 上空から何度も聖剣を振りかざし、白き斬撃を連発する。


「絶覇!」

 右手を手刀の様に振り、迫る白き斬撃を次々と弾く。


「アルカード! 防戦か!?」

 そう言うとネフィタリスは聖剣を空へと掲げた。


 刀身の先に収束する白い魔力。

 これこそ、聖剣の源である光属性の魔力。


 ネフィタリスの持つ膨大な光属性の魔力。

 しかし、天創の巫女と謳われたクリス・ニルヴァーナの光属性の魔力は、この魔力を遥かに上回っていた。


「――だから、負けられないね」


 何せ、それはかつての僕が彼女に託した物なのだから。


 それにネフィタリスは間接的にかつての僕の部下である。

 少なくとも、あの頃はハルジオンが僕に勝てたことは一度も無かった。


 それも、あの頃の話。

 今の僕はかつての僕では無い。


「終わりだ! アルカード!」


 振りかざした。

 聖剣とニルの間に、一筋の光が差す。


 コンマ数秒後、轟音と共に刀身から放たれる光の斬撃。

 それは濁流の様にニルへと向かって行った。


「断空!」

 ニルはそう告げ、右手を右へと振りかざした。


 断空。

 空間さえも遮断する無色の壁。


 断空は勢い良く光の斬撃と衝突する。


 目の前にある光の斬撃。

 ニルとの距離は数センチ。


 僕の命はこの見えない壁に掛かっていた。

 右手は振りかざす手前で止まっている。

 不思議と右手に力が入った。

 

 火花を散らしながら、衝突する斬撃と壁。

 

 数秒後、互いに力尽きたのか、同時に消滅する。


「互角か・・・・・・」

 未だ上空にいるネフィタリスは解せない顔で告げた。

「そうだね」

「まあ、お前はもう無いだろう」

 ――魔力が。続くその言葉。

 ニルには言われなくてもわかっていた。


 そうさ。ネフィタリス、君の言う通りだよ。


 後で回復するとは言え、今君を倒せる魔力はほとんど残っていない。

 あくまでも、僕自身の魔力は――だけど。


「うん。だからさ――」

 ニルはゆっくりと瞼を閉じると、何かを開放する様に目を見開いた。


 オシリス・エニシス。

 宝具を使えるのは、君だけでは無いのだよ。


「っ!?」


 自身の中の何かを見透かされた感覚。

 言葉に出来ない不快感がネフィタリスを襲った。


「本気で行くよ」

 告げた瞬間、ニルの右に突如現れた黒い雲。


 不透明で禍々しいその黒い雲に、ニルは静かに右手を入れた。

 その黒い雲から勢い良く引き抜いたのは、黒い洋剣の様な物。


「魔剣――ダモクレス」


 告げられたその名。

 

 魔剣・ダモクレス。

 聖剣・ネフィタリスと並ぶ宝具の一つ。

 

 目には、目を。

 宝具には、宝具を。


 聖剣には、魔剣を――。


「何だ。その禍々しい物体は――」

 目を見開き、ネフィタリスは目の前の事象に激しく動揺する。

「そうか。君には、これが剣には見えないんだね」

 魔剣が纏う禍々しい魔力が具現化して、ネフィタリスには物体として見えている。

 それほど、魔剣が纏う魔力濃度が濃く、膨大であるのだ。

「君と同じ宝具だよ」

「それが宝具だと・・・・・・?」

「ああ、そうさ」

「馬鹿な・・・・・・っ!」

「これからこの剣で君を壊すよ」

「宝具である我を壊す――だと?」

「ああ、そうさ。宝具を破壊出来るのは、宝具だけなのだから」

 ニルは空を見上げ、天に告げる様に言った。


 宝具を壊すこと。

 無論、そこらへんの武器で壊せる訳でも無く、壊される代物でも無い。


 世界の命運を左右する宝具。

 その破壊は大罪なのだ。


 無論、僕以外は――。


「壊れても君が気にすることは無いさ――」


 かつての友である鍛冶屋へ向けて。

 ニルは空を見上げ、そう告げた。


 鍛冶屋である君が気に病むことは無い。


 少なくとも、君の宝具が負けたのは、誰でも無い君の宝具自身だ。

 君が作った宝具は、誰にも負けない最上位武器なのだ。


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