第25話


 ニルは猛スピードで都市部へ向かっていた。


 弾丸と並ぶほどの速さ。

転移魔法が使えない以上、今出来る最速を。


「っ!?」


 空間が軋む感覚。

 止まること無く、驚いた様にニルは目を見開く。


 直線数十メートル先に巨大な魔力を感知したのだ。


 その主は突然現れたのでは無い。


 突然、魔力を開放したのだ。

 ――それもわざと。


 視線の先にいたのは、一人の赤髪の青年。

 オシリス・エニシスだった。


「初めまして――アルカード」

 白銀の大剣を担ぎ、オシリスは興味津々な笑みを浮かべた。


 オシリスを前にニルは急減速し、その場に留まる。


「――君は?」

 小さく息を吐き、ニルはオシリスをまじまじと見つめる。


 その研ぎ澄まされた銀色の魔力。

 只者では無いのは確か。


「私はエニシス魔法騎士団、騎士団長のオシリス・エニシス」

「エニシス――王族か」


 国の名を背負うと言うことは、必然的に王族であろう。

 それに魔法騎士団長。

 必然的に、王国の中でも最強の騎士と言うことだ。


 魔法都市エニシスの実質最高戦力。

 彼らにとって、グレイニル・アルカードが来たと言う事実はそれほどの事態なのだ。


「そうだよ。なあ――アルカード」

 ニルをまじまじと見つめ、オシリスは不満げな顔を向ける。

「なんだい?」

「君は――本当にアルカードなのか?」

「本当に――?」

 本当も何も、君らは僕の魔力を検知してここまで来たのでは無いのか。

「もう一度、質問しよう。君が世界を終焉させた、あのアルカードなのか?」

「・・・・・・そうだと思う」

 覇気のあるオシリスの声に、思わずニルは曖昧な返事をする。

「思う? ――どうして?」

 大剣を手に取り、抜刀態勢に入った。


「それは、あの頃の僕と今の僕は違うからだよ」


 グレイニルであり、アルカードでは無い。

 今の僕は歴史が語るアルカードでは無いのだ。


「・・・・・・そうか。――まあ、いいや」

 オシリスはそう言うと、白銀の大剣を上へ掲げた。

 太陽の光に輝くその刀身は、さらに艶を増していく。


「我! オシリス・エニシスが告げる! 聖剣・ネフィタリスよ! 我が魔力を持って解放せよ!」


 その瞬間、オシリスが持っていた白銀の大剣が光り輝いた。


 刀身に秘めた能力を開放する様に、白銀の大剣は呼応する。


「・・・・・・宝具か」


 オシリスの持つ聖剣と言われる白銀の大剣。

 あの大剣が何なのかをニルは知っていた。


 千年前、伝説の鍛冶屋が作った九つの最上位武器。


 武器自身にも膨大な魔力を持っていた最上位武器たちを、後に魔導師たちは『宝具』と呼んだ。


 しかし、その強すぎる武器たちは、次第に使用出来る者がいなくなる。

 幾つかの宝具は、あの頃から保管されていた。


 オシリスの持つ聖剣・ネフィタリスも保管されていた宝具の一つだった。


 解放される聖剣の魔力。

 それは具現化されるほどの魔力量。


 しかし、あの魔力は決してオシリス自身の魔力では無い。


 オシリスを纏う様に漂う白い光の瘴気。

 それこそが聖剣の魔力。


「――さて、宝具が勝つか、君が勝つか」

 その魔力量にニルは呟く様に告げた。


 武器自身が膨大な魔力を持つ。

 即ち、所有者はそれ以上の魔力を持たなければ、暴走してしまうと言うこと。

 それ故、宝具は使われずに保管されたのだ。


「無論、私だよ! アルカード!」

 オシリスはそう叫ぶと、聖剣を垂直に振りかざす。


 刀身が地面に触れた瞬間、光の斬撃が一直線にニルへと向かう。


 光速の斬撃。

 並みの魔導師ならば、その斬圧だけでも気絶するだろう。


「この斬撃は、かつてエニシスを襲った魔龍を倒した斬撃だ。それ故、この聖剣は龍殺しの剣とも言われている! さあ、アルカード! この斬撃を前にひれ伏せ!」

 光の斬撃を前に、オシリスは勝ち誇った顔で左手を広げた。

「魔龍――。ヘンリルかな――?」

 平然とした顔で光の斬撃を眺め、ニルは不思議そうに首を傾げた。


 かつての僕が飼っていた魔龍・ヘンリル。

 そう言われると、あの聖剣から微かにあの子の魔力を感じる。

 それも、残留魔力と言う血液に循環する魔力だ。


 僕亡き後、結局あの剣に倒されてしまったのか。

 ――素直にショックだった。


「・・・・・・なら、あの剣を壊す理由が出来たね」


 ヘンリルの敵討ちを。


 迫る光の斬撃を前にニルは小さく息を吐いた。


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