第20話


 数分後。

 魔法都市エニシス領空。


「ところでアイリス」

 思い出した様な声でニルは問う。

「どうしたの?」

「そのー、カノンは巫女なのかい?」

「っ! ・・・・・・そうよ」

 鳥肌が立った様に目を見開くと、アイリスは白状する様に答えた。

「・・・・・・やっぱりか」


 巫女。

 その単語は、古くから膨大な魔力を持つ少女を指す。


 意図せずして、膨大な魔力を持ってしまうその特性は、

 百年に一度の奇跡と言われていた。


 千年前の巫女は、天創の巫女と言われたクリス・ニルヴァーナ。


 そう――アイリスである。


「そうよ、カノンは現世の巫女よ。カノン自身は隠しているみたいだけど」

「そりゃ、そうだよね」

 自身に集まる期待と注目。

 魔法が上手く出来ないカノンなら尚更だ。

 他人の期待と言う観点で言えば、アイリスもカノンも似た様なものなのかもしれない。

「今ならわかるわ」

「ん?」

「カノンは出会った時から私に親しくしてくれたの。私も不思議と親しい様な気持ちだった。まるで、昔からの知り合いみたいに。もしかすると、私たちは見えない何かで引き寄せられていたのかもしれないわね」

 考え深い。アイリスはそう言いたげな考え込んだ顔をしていた。

「巡り合わせか」

 この現世でニルとアイリスが出会った様に。


 千年前の巫女と現在の巫女。


 彼女たちの出会いは、偶然か、必然か。




 魔法都市エニシス。


 魔法騎士団本部、魔力感知室。

 本部内は、緊急アラームが大音量で鳴っていた。


「都市へ向け、高速で何かが向かって来ています!」

 制御システムの様な機器。

 その前にいた若い隊員が各員に告げる。


 魔力感知室には、二十人ほどの隊員がいた。


「兵器か? 銃撃か? ミサイルか――?」

 予想外の出来事に、司令席にいた年配の男性は戸惑う。

 少なくとも、その警報が誤作動でないのならば、敵襲であろう。

「いえ、これは――人です! 人が二人!?」

 制御システム画面を見つめ、若い隊員は再度表示画面を確認する。

「な、なんだと?」

 現場は騒然とした。

 このアラームが、普段と違うと言う事実に。

「この魔力、この波長・・・・・・そんな――」

 キーボードを打ち、該当する魔力の波長を検索する。


 エニシスが持つ秘匿情報の一部と一致した。

 若い隊員は秘匿情報を回覧するためのパスワードを入力し、該当する情報を確認する。


 一致している情報。

 思わず、若い隊員は動きを止めた。


「どうした?」

 司令席の男性は、眉間にしわを寄せ若い隊員に問う。

「この魔力は、アルカード――の魔力と合致している様です・・・・・・」

 理解出来ていない戸惑った声を出す。

 若い隊員はその名を歴史の教科書でしか見たことが無かった。

「アルカード――だと?」

 その名に、現場にいる全員が目を見開いた。


 そして、若い隊員が制御システムの表示画面をスクリーンへと映す。



『合致魔力:グレイニル・アルカード』



 天災の名。

 破滅の総称。


 千年の時を経た覇王の再臨。


 災害級の侵入者に、現場は混乱する。


 何度も検知を繰り返す。

 しかし、結果は変わらなかった。


 陸からのカメラから見える二人の影。

 紛れも無い人間だった。


 なぜ、あのアルカードが現世に現れたのか。

 しかも、どうしてこの国に。


 理由はわからないまま、隊員たちは戦闘態勢に入った。



 ――これから起こるのは、戦争なのだ。



 それから、十分後。

 

 その事実はエニシス魔法騎士団長へと伝わった。

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