第15話


 日に照らされた世界。

 ただの荒れ地がどこまでも続いていた。


(これは――)


 その世界を見て、アイリスはようやく理解する。


 これこそ、歴史が語る世界の終焉であると――。


 千年前。

 自身が見ている景色は、世界が変革したその日なのだ。


 荒れた大地に現れる二人。

 グレイニルとクリスだった。


「・・・・・・何も無い」

 夢であるかの様にクリス何度も周囲を見渡す。


 しかし、前後左右何度見ても変わらない。

 映るのはただの荒れた大地だった。


「そりゃ、そうさ。世界を終焉させたんだから。――うん、これで良かったんだよ」

 何かを感じ取ったのか、グレイニルは小さく頷いた。

「っ――」


 その意味。

 本当にそれがここで起きてしまっているのだ。


「だからね――」

 グレイニルがそう告げると、胸元から小さな光が出現する。

 その小さな光を手に取り、グレイニルは差し出す様にゆっくりとクリスへと近づけた。

「これは・・・・・・?」

 恐る恐る光に触れる。


 その瞬間、膨大な光属性の魔力がクリスに宿った。

 

 宿るその魔力。

 彼の意志。


 そして、これから自身が為すべきことも。


「じゃあ、後はよろしくね――クリス」

 笑顔でそう告げると、グレイニルは灰色の砂となって散ってしまった。


「グレイ――。ニル――っ!」


 幼い頃に呼んでいた彼の名。

 クリスの中でグレイニルへの様々な感情が込み上げた。


 もう目の前には彼はいない。

 後ろ向きな感情を吐き出す様に大きく息を吐いた。


 この魔力に宿る彼の意志。

 不思議と彼が私の中にいる様な気がした。


 決意の様にクリスは目を見開くと、白い翼を生やし、上空へと飛翔する。


 ここから見ても、地上の景色は何一つ変わらない。


 本当に世界は終焉したのだ。


 だから、ここから――、ゼロから――。


 彼に代わり、私が世界を作るのだ。


 涙ぐんだ顔でクリスは両手を上空へと掲げる。


 彼が託したこの魔力。

 不思議と今なら何でも出来そうな気がした。



 ――天創(てんそう)。



 天地創造の最上位魔法。

 グレイニルが作った世界を創造する魔法だった。


 クリスを起点に、一瞬で世界は光に包まれた。


 そして、世界はもう一度、光を取り戻す。


 世界は生まれ変わり、創造主となったクリスは伝説となった。


 ここでアイリスは理解する。

 これは歴史が見せたものでは無く、自身の前世の記憶なのだと。

 自身、クリス・ニルヴァーナの記憶なのだ。


 

 そして、意識は再び現世へと誘われる。

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