第14話


 アイリスは意識を取り戻した。


 どうしてか、彼女は空の上にいた。


 上空。

 雲と並走するその世界。

 斜め下の光景。


 地上の大地を歩く、一人の白髪の少女がいたのだ。


「っ――」

 アイリスは言葉を失う。

 その姿は紛れも無く、自身の姿だったのだ。

 しかし、自分とはどこか違う。

 いったい、彼女と私は何が違うのか。


「――ねえ、クリス」

 歩く少女に黒いコートを着た青年が声を掛ける。

 どうやら、私に似た彼女はクリスと言うらしい。


 そこで気づく。

 彼女はもしかすると、祖先のクリス・ニルヴァーナなのかもしれないと。


 声を掛けた青年。

 その容姿はニル・ドラゴニスと瓜二つだった。


「どうしたの、グレイニル」

 友人と接する様な口調でクリスは首を傾げた。

「もしもさ――」

 空を見上げ、グレイニルは静かに告げる。


「――もしも、この世界が終わるとしたらさ」


 気持ちを落ち着かせる様に深呼吸をする。


「・・・・・・ええ」


 何を言っているのか。

 眉間にしわを寄せ、険しい表情をしつつも、クリスはグレイニルの言葉を聞いていた。


「――君が世界を創世してくれ」


 グレイニルは告げる。


 ――笑顔で。


「どうして――」

 クリスが信じられない顔で告げた。


 その瞬間。

 時が止まった様に世界が止まる。


 そして、世界が反転した様に、視界が勢い良く回転する。


「ここは・・・・・・?」

 アイリスの視界が安定した頃。


 そこは燃え盛る世界。


 真夜中にも関わらず、明々と世界を照らす。

 目の前の村が燃え盛り、山は割れる様に崩れていた。


「これは――」


 地獄を見ているのか。

 言葉が詰まる。

 喉に異物が詰まった様な不快感。


 崩落する山の上空に立つ一人の青年。


「グレイニル・・・・・・」

 村の前にいたクリスは呆然とした姿で呟いた。


「――グレイニル・アルカード」


 畏敬の念を示す様に、クリスはゆっくりとその名を告げる。


(っ!?)


 クリスが告げたその名。

 アイリスは驚き、目を見開いた。


 その名こそ、かつて世界を終わらせた覇王の名。


 ――天災の名。

 

 なぜ、祖先が覇王と一緒にいるのか。

 そして、なぜニルの姿をしているのか。


 数秒後、アイリスは後者の理由を察した。


(もしかして、ニルは――アルカード?)


 私と同じその名を背負う者。

 彼はアルカードの祖先なのだ。


 クリスは翼を生やすことが出来る飛翔魔法を用いて、グレイニルのもとへとやって来る。


「・・・・・・クリスか」

 顔を上げたが、クリスと理解すると再び地上へと視線を戻す。


 儚げな表情。

 どこか、その顔は来るのを知っていた様に見えた。


「ねえ、どうして――どうしてなの」

 グレイニルに迫る様な勢いでクリスは問う。

 その目は涙目で今にも泣きそうだった。


「どうして――って、世界を壊すことかい?」

「ええ。なぜ、あなたが――」

「それは僕が覇王だからだよ」

 クリスが言葉を告げる前に、否定する様にグレイニルが告げた。


 それは確定事項。

 そう言いたげな強めの口調。


「覇王・・・・・・だから?」

 グレイニルの返事にクリスは呆然とする。

「うん。それにこれしかもう策は無いんだよ。今はこれしか――」

 そう言うと右手を広げ、上空へかざす様に上へと掲げた。


 右手に集束する膨大な魔力。

 天災でも起きるのかと思うほどの密度。


 グレイニルは決心する様に大きく息を吸った。



 ――終創(しゅうそう)。



 終焉創造の最上位魔法。

 グレイニルは淡々と告げた。



 ――刹那――。



 照明を切った様に世界は黒天となった。


 目の前に何があるのか、何も無いのか。


 それすらもわからない純粋な無の世界。


 それから、どれくらいの時が経っただろう。


 気がつけば、朝日が昇っていた。

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