第12話
放課後。
アイリスとカノンは王都の街中へと向かっていた。
「ねえ、アイリス」
隣でカノンが晴れ晴れとした顔でアイリスに声を掛ける。
彼女はいつ見ても、明るい雰囲気を纏っていた。
不安さえ感じないその雰囲気は、
いつも不安に駆られる私を前向きな気持ちにしてくれる。
「どうしたの?」
「今日もさ、いつもの喫茶店で良い?」
「そうね、そうしましょう」
安堵した表情でアイリスは微笑んだ。
いつもの場所。
学園に入学する前から、そこがアイリスたちの話場だった。
「わーい」
カノンはワントーン高い声を出し、嬉しそうに両手を広げた。
こうして、アイリスとカノンは街中の喫茶店へと向かって行く。
大通り近くの歩道。
目的の喫茶店には、後三分で着く距離。
すると突然、周囲の空気が変わった。
「――え」
急に静寂になったのだ。
アイリスたちは戸惑う様に立ち止まる。
数秒も経たず、轟音と共に背後の空間が歪んだ。
まるで、空間を無理やりこじ開けている様な音。
そんなことが出来るのか。
アイリスはその術を知らなかった。
数人が地に着いた音。
背後に感じる異様な雰囲気と圧力。
棘の様に背中に刺さる魔力。
アイリスは確信する。
突如、この場に数人が現れたことに。
そして、背後にいるのは、紛れも無く自身たちの敵であることを。
恐怖心で硬直する身体を無理やり動かし、アイリスは恐る恐る振り向いた。
目の前にいたのは、四人のフードを被った男たち。
彼らが纏うその魔力から、アイリスは彼らが魔導師であることを理解する。
それも、ただの魔導師では無い。
学園にいる様な半端な魔導師とは違う。
魔力の濃度が濃い本当の魔導師だ。
「それでダリウス。――核はどちらだ?」
中年の男性は細い目で見つめると、隣にいた細身の男、ダリウスに問う。
ダリウスと言う男は、残りの男たちと比べて魔力が高かった。
おそらくは、彼が首謀者だろう。
アイリスは現状を分析すると同時に魔力を練り始めた。
「右の水色だ。さっさと済ませるぞ」
吐き捨てる様に言うと、ダリウスは両手で数回、印を結んだ。
その瞬間、カノンの四方に小さな黄色の魔法陣が浮かぶ。
「鎖錠天理(さじょうてんり)」
ダリウスが告げると、黄色の魔法陣から黄色い鎖が飛び出した。
四本の黄色い鎖は、鎖同士ぶつかり合いながらも勢い良くカノンの四肢を拘束する。
拘束された痛みか、カノンは言葉にならないうめき声を上げて意識を失った。
「カノン!」
突然の出来事。
アイリスは咄嗟に身体を動かし、カノンに向かう。
彼らの目的。
おそらく、カノンの持つ魔力が目的だ。
ならば、カノンを連れて逃げるしか道は無い。
カノンへ向かうアイリスの前に別の男たちが立ちはだかった。
「火球!」
立ちはだかる男たちにアイリスは右手を向け、火の玉を男たちへ放った。
今のアイリスが出来る一番火力がある法撃魔法。
無論、これで男たちを倒せるとは思っていない。
しかしながら、友を救出するための隙を作れるなら、出し惜しみは出来なかった。
アイリスが放った火球に、一人の男が右手を振りかざして破壊する。
素手で破壊した。
何の抵抗も無しに――。
アイリスは驚きのあまり立ち止まってしまう。
「重圧杭(じゅうあつぐい)」
隣にいた男がそう唱えると、アイリスの頭上に黒い杭が出現する。
そして、重力に抗うこと無く、アイリスの腹部へと突き刺さった。
「っ――!」
痛みのあまり、アイリスは言葉を失った。
力尽きる様にゆっくりと地面へと倒れていく。
魔力が抜けて行く様な感覚。
今のアイリスには、立ち上がる気力すら無かった。
――制圧――。
一分ほどの時間で、ダリウスたちはこの場を制圧する。
「そろそろ行くぞ」
黄色い鎖で拘束されたカノンを担ぎ、ダリウスは男たちに告げた。
「ああ、そうだな」
一人の男が言うと、男たちはアイリスに背中を向け、この場を去ろうとする。
「ま、待って・・・・・・っ!」
霞む意識の中、アイリスは必死で顔を上げた。
カノンが行ってしまう。
どこかわからぬ、遠いところへ。
――私に力があれば。
天創と言われる力が、私にもあれば。
こんな苦しい思いもせず、友を助けられるだろうに。
どうして、私にはその力が無かったのか。
激しい後悔と共に、アイリスは意識を失った。
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