第9話
昼休み。
購買へと向かうため、ニルはアイリスと二人で廊下を歩いていた。
不思議とクラスメイトだからか、僕らは二人で行動することが多くなった。
「ねえ、アイリス」
「え?」
考え事をしていたのか、アイリスは少し呆けた顔を返す。
「彼女――カノンは魔導師なの?」
純粋にその表情に驚きながらも、抱いていた疑問を返す。
あの魔力量からして、魔導師でも違和感は無い。
見た目の違和感はあるけど。
「いいえ、違うわ。彼女はシステム課よ」
「システム課――? あんなにも魔力があるのに?」
この学園には魔導課の他にも、後方支援や救護を主としたシステム課や看護科などが少数だが存在する。
アイリスが代々受け継がれていた治癒魔法を受け継いでいたとすれば、看護科に入学すべきだったのでは無いかと思う。
「っ――。あなたにはわかるのね」
見抜かれた。そう言いたげな驚いた顔を返すと、アイリスは降参した様に大きくため息をついた。
「そりゃ、わかるよ。魔導師ならわかるさ」
魔力量の分析は、魔導師にとって基本中の基本だろう。
敵の魔力量、実力がわからないと、
戦うべきか逃げるべきかを判断出来ないのだから。
今のニルには見つめるだけで、見つめた相手の表面的な魔力量を分析出来た。
「・・・・・・ニルは魔導師なの?」
純粋に首を傾げ、あまり驚いていない顔をする。
この学園には入学前から、魔導師の生徒も多数在籍していた。
それ故、ニルが魔導師だとしても、アイリスは驚かなかった。
「うーん。まあ、魔導師だったが正しいかな」
そう言ったものの。ニルは途端に困った顔をする。
今の自分はまだ魔導師と呼ばれる立場では無かった。
だから、だったが正しいのだ。
何より、魔導師の肩書は社会、在籍国が認可するもの。
僕はまだベルセルクに魔導師と認められていなかった。
「――だった?」
アイリスは立ち止まり、ニルの言葉が引っかかっている様な表情をする。
「うん。そうだよ」
あくまでも、過去の僕――かつての僕なのだ。
「そうなんだ・・・・・・」
渋々納得した顔で再び足を動かしていく。
「でもまあ、あの魔力は――危険だね」
不思議とニルは嫌な予感がしていた。
魔導師では無いのに膨大な魔力を持つ者。
つまり、自身ではその魔力を活用出来ないと言うことだ。
――そう、良くも悪くも。
「え?」
「あ、彼女が悪い意味じゃないよ。その逆でさ、彼女が危険に晒される可能性があるってことだよ」
彼女が持つ膨大な魔力が悪用される危険性を。
今の時代、魔力で駆動する兵器など幾らでもあるはずだ。
かつて、魔力を充填する魔導砲が存在した。
無論、現世でもそれに似た様な兵器は存在するだろう。
「それも・・・・・・そうね」
思い当たることがあるのか、アイリスは小さく頷いた。
「まあ、この学園の警備はしっかりしているから、外部からの侵入は容易くないと思うけどね」
無論、防衛設備も防御結界も展開されている。
何より、学園にいる教師陣も魔導師。
容易に侵入し、学園を制圧することは困難であろう。
少なくとも、並みの魔導師の話だが。
「もし・・・・・・。もしも、カノンの身に何かあれば、私が盾となるわ」
眉を寄せ、アイリスは考え込んだ表情で言った。
「アイリスが?」
口を半開きして、思わず聞き返す。
ニルには、アイリスが戦う姿は想像出来なかった。
「ええ。だって――」
「だって?」
「――だって、私はニルヴァーナだもの」
はっきりと告げるその言葉。どこか深々とした雰囲気が漂っていた。
「・・・・・・そうだね」
彼女が抱く正義。
そして、その使命――。
察した様にニルは頷いた。
彼女が背負う、その正義。
かつての僕が彼女に託した正義でもあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます