第8話


 翌日。

 ベルセルク学園。


 校門でアイリスと出会ったニルは二人で校内へと入って行った。


「アイリスー、おはよー」

 すると、教室に入るなり、アイリスに抱きつく一人の少女。


 小柄で水色のセミロングヘアー。

 おっとりとしたその眼差し。

 ふんわりを具現化した様な包容力のある容姿。


「――っ!」

 アイリスの隣にいたニルは目を見開き驚いた。

 その愛らしい容姿にも驚いたが、それ以上に驚くことがある。


 彼女の中に溜まる膨大な魔力の多さに。

 別に魔力が高い訳では無く、ただ単に貯蔵出来る魔力の量が多いと言う意味だ。

 まるで、魔力貯蔵装置の様な魔力量。


「おはよう、カノン」

 微笑む様にアイリスはカノンに笑みを返す。


 隣で笑うアイリスも美少女、目の前にいるカノンと言う少女も美少女。

 美少女たちとこんなに近くで接する機会なんて、かつてあっただろうか。

 ――無論、無かった。


「ねえ、アイリス?」

 それ以前に彼女は何者なのか。そのために声を掛けた。

 アイリスの隣にいたからか、カノンはニルを不思議そうに見つめる。


 微笑みながらも瞬きを繰り返すその表情。

 愛らしい雰囲気をしていた。


「・・・・・・その人、彼氏さん?」

 答えが出たのか、ハッとした顔でカノンは首を傾げる。

 童顔だからか、カノンはアイリスよりも年下の女の子に見えた。

「ち、違うよ!」

「う、うん。違うよ?」

 二人揃って否定する。

「あ、そうなんだー。それで、お兄さんはー?」

 カノンの呑気な口調。

 その声質はどこか眠たそうな声に聞こえる。

「僕はニルって言うよ。ニル・ドラゴニス」

「ニル――、ニルくんだねー。私はカノン・リンゲージ。アイリスとは、子供の時からの付き合いだよー」

 両手を広げ、身体で歓迎を表現する。その姿は、まさに小動物。

「そうなんだね」

 その様子だと、二人とも王都ベルセルクの出身の様だ。

「それでー?」

「それでと言いますと・・・・・・?」

「それでニルくんとアイリスはどうして一緒なのー?」

 どうして、なんで。そんな疑問符を浮かべた顔。

「へ?」

「アイリスが男の子と二人って、初めて見たからさ・・・・・・」

 水色の髪をなびかせ、純粋に首を傾げるその姿。

 素直に可愛いの一言だった。

「そ、そう?」

 アイリスが身に覚えが無い様な腑に落ちない顔をする。

 確かに、一度もアイリスが男子生徒と話しているところを見たことが無かった。

「うん。てっきり、好きな人が出来たのかと・・・・・・」

 呆然とした顔でカノンは告げる。

「そそそ、そうじゃないわよ・・・・・・」

 どうしてか、アイリスの声が次第に小さくなっていく。

「・・・・・・」

 言葉に詰まる。僕らには見えない因果があるが、決して色恋では無いだろう。

 それか、彼女には直感的に感じることがあるのだろうか。

「ふーん、そうなんだね。――ニルくん」

 雰囲気が変わる。カノンは真顔になった。

「ん?」

 何かが止まった様な光景。まるで、気持ちを切り替えた様に見えた。

 アイリスはニルの隣で未だにおろおろしている。

「――よろしくね」

 不敵な笑みをカノンは返した。

「あ、うん」

 自然とドキッとしたのはなぜか。

 やはり、包容力のある女子に魅力を感じているのか。


 かつての僕の周りには、包容力のある美女ばかりだった。

 あの時の僕の好みはそうだったかもしれないけど。

 今はどうかと言われると、素直にイエスとは言えなかった。



 今の僕は、かつての僕と少し違うのかもしれない。


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