第7話


 しばらく歩き続け、ニルたちは王都の中心街へと来ていた。


「ねえ、アイリス」

 立ち止まり、ふと気がついた様にニルは振り向く。

「どうしたの?」

「んー、君は狙われやすいの?」

 狙われやすいと言うか、言われやすいと言うか。


 ニルヴァーナと言う名が故に。


「狙われやすいって・・・・・・へ?」

 どうして両手で自身の身体を隠そうとしているのだろう。


 照れる様に顔を赤くするアイリス。

 その顔でじっと見つめられると、僕も照れて来る。


 客観的に見ても、アイリスは紛れも無い美少女である。

 その容姿ながらも、どこか自信が無い様な表情をしていた。

 それは雰囲気からも読み取れるほど。


「んー、変に喧嘩を売られるとかさ?」

 先ほどの様に突拍子も無く言われるのは、気が滅入るだろうに。

「・・・・・・喧嘩とまではいかないけど、嫌な言葉はよく言われる」

 思い出したのか、アイリスは落ち込んだ表情でため息をついた。

「嫌な言葉――か」

 その語彙の選択に、ニルは彼女が抱いた感情を理解する。


 彼女に降り注いだその言葉の数々。

 原因は僕にもあった。


「でも――」

「でも?」

「でも、良いの。――私が使えないからだもの」

 アイリスは申し訳無い顔で現実を受け止める。


 使えない自分が悪い。

 だから、言われるのはしょうがない。

 彼女はそう言うのか。


「・・・・・・天創の力を?」

「うん。おばあちゃんもお母さんも使えたらしいの」

「え? どんな力なの?」

 初めて聞く様に、ニルは驚いた顔で眉を開く。

「何か・・・・・・癒しの力――らしい」

 目の当たりにしたことは無く、他人からの言葉で知った様な口ぶりだった。

「そうなんだ・・・・・・」


 無論、天創とはそんな治癒魔法では無い。

 それは彼女たちが代々受け継いでいる治癒の魔力だろう。

 つまりは、アイリスは治癒の魔力が受け継がれていないと言うこと。


 別にニルヴァーナ、天創の力が彼女に受け継がれていない訳では無いのだ。

 

 喉まで出たその言葉。

 しかしながら、その言葉は僕の立場で最も言ってはならない言葉である。


 その天創こそ、僕がかつての彼女に託した魔法なのだから。



 アイリスと別れ、ニルは一人で王都の街を歩いていた。


「――まあ、どちらにしても今の僕は世界をどうしたいとかは思っていないしなー」

 空を見上げ、ひと息つくとニルはゆっくりと背伸びをした。


 アルカードとニルヴァーナ。


 世界の破滅か――。


 世界の創造か――。



 果たして、僕らのこの再会は何を生むのか。


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