第6話
ニルを囲む彼らの中で動く小さな魔力の波動。
その波動からニルは彼らの魔力量を理解する。
「火鳳(かほう)」
「雷鳴(らいめい)」
「水巻(みずまき)」
サリエルを初め、各々と詠唱の様に告げるその言葉。
迫りくる炎と雷と水の法撃。
どれも初級の法撃魔法だった。
薄膜の様に薄いその魔力。
この拳の一振りで破壊出来るほどの脆弱さ。
逆に言えば、これが学園に入学する生徒たちのレベル。
今の時代、これでも魔導師と呼べるのだ。
――そんなものか。
この拳で破壊する。
ニルは迫る法撃を前に考えた。
しかしながら、今彼らに見せるべきは、物理的な力では無い。
「明鏡止水(めいきょうしすい)」
迫りくる法撃を前にニルは静かに告げた。
一瞬の静寂。
水面に一滴の雫が垂れる音がこの場に響いた。
刹那。
弾ける様に、三方の法撃は一瞬にして消滅する。
彼らに見せるべきは、彼らの力が無力であること。
――圧倒的な無を。
「なんだ――と?」
呆然とする三人。
アイリスも同じ様な表情をしていた。
「別に血筋なんてどうでも良いじゃないか」
何食わぬ顔ではっきりと告げる。
結局、血筋など関係無いのだから。
「ニル――。まさか――グレイニル・アルカード――か・・・・・・?」
過る一つの可能性。
驚いた様にサリエルは目を見開いた。
サリエルの中で駆け巡る小さな魔力。
動揺と思考の迷走が伺えた。
「っ――察しは良いんだね」
予想外の言葉に驚き、思わず感心してしまう。
ニルと言う名とこの力だけで気づくとは――。
やはり、君は戦闘力よりも、洞察力の方が優れているんだね。
グングの名を持つ者の宿命なのかな。
「そ、そんな――っ! ありえない! あれは歴史の妄想だろう!?」
腰を抜かした様にサリエルは後退した。
そして、血の気が引いた様な顔で硬直する。
ニルの言葉で確信に変わる。
ニルのその素性を、その力を。
グレイニル・アルカード。
その名は世界を終わらせた覇王の名。
「アルカード――?」
断面的に聞こえたその言葉。
無論、アイリスもその言葉を知っていた。
世界を創世したのが自身の祖先。
その前に世界を終わらせたのが――アルカード。
歴史の教科書では、その名を『天災(アルカード)』と呼んでいた。
アルカードとニルヴァーナ。
終わりと始まり。
不思議と関係性を感じた。
「――まあ、サリエル・グング。君らには知る必要も無いことだよ」
そう言うとニルはサリエルたちの方へ、右手をかざす様に向ける。
「絶波(ぜっぱ)」
告げると右手から衝撃波が放たれ、サリエルたちは一瞬にして気絶する。
絶対波動。
最小威力でも軽い脳震盪を起こし、記憶を無くすほどの威力を持つ。
「さあ、行こうか、アイリス」
倒れるサリエルたちを無視し、ニルは逃げる様に学園と反対側へと歩いて行った。
そのうち、事態に気づいた学園関係者が彼らを助けるだろう。
無論、命に別状は無い。
「え、ええ・・・・・・」
おろおろしながらも、アイリスはニルの後をついて行った。
ニルとサリエルは何を話していたのか。
断片的な言葉だけで、アイリスにはその会話は聞こえていなかった。
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