第4話



 入学式当日の放課後。


「あ、あのニル・・・・・・」

 授業が終わり、教室を出て行こうとするニルにアイリスが慌てて声を掛けた。

「ん? どうしたの?」

 そんなに慌ててどうしたのか。

 綺麗な髪をこんなに乱して。

「そのー、あのー」

 何か言いたげな顔をして、アイリスはおろおろしている。


 不安。

 眉をしかめるその表情から、その感情がひしひしと伝わってくる。


「僕、可笑しいかな・・・・・・?」

 両手と身体を眺め、不可解な点が無いか確認する。

 ――無いと思うけど。

「いや、そんなこと無いんだけど。何か・・・・・・なんだろう・・・・・・?」

 自身でもわからぬ違和感に、アイリスは何度も首を傾げていた。

「何か?」

 何かなんだろうとは、いったいなんだろう。

「不思議と――。不思議とあなたとは初対面じゃない気がするの」

 本音が零れた様に。アイリスはあっさりとした顔をしていた。

「・・・・・・僕もだよ」


 無論、僕は君が何者かを知っている。

 しかし、君は無自覚ながらも、僕が何者かに気づいている。


 記憶では無い、感覚と言う領域で。


 やはり、これが僕らの運命か。

 自然と笑みが零れた。


「へ?」

「・・・・・・不思議とね」

 アイリスの真似をする様に、ニルはあっさりと言った。

「そうだよねっ。やっぱりそうだよねっ」

 共感してくれることに驚いたのか、アイリスの顔は途端に晴々とする。

 顔を左右に揺らす度、綺麗な白銀の髪が照明の光に反射する。

「まあ、きっと僕らは初対面だろうけどね」

 冗談を言う様に笑みを浮かべ、ニルは背を向けた。


 嘘では無い。

 少なくとも、今の僕らは。


「ふふっ。でも、不思議な感じ」

 ニルの言葉にアイリスは微笑むと、両手を後ろに組みゆっくりと伸ばした。


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