第7話


 ニルヴァーナ第六エリア。


 広々とした荒野地帯。

 世界の終焉が起きる前は、栄えた市街地だったとか。

 その過去が冗談と思えるほど、面影は無かった。


「動作確認には絶好の場所だな――」

 健悟は着くと、大きくため息をついた。


 見通しも良く、地面も比較的平らな地盤。

 翼人機が動くには十分すぎる場所だ。


「動作確認?」

 白衣の様な服装の咲が、健悟の隣で首を傾げている。

 原則、回復師は白衣系の服装を着用することを義務付けられていた。


「いや、何でもないよ」

 そう言うと健悟は、煙が舞う箇所に視線を向ける。


 数キロ先。

 空へと舞う複数の翼人機。

 逃げる様に戦う複数の人間。


 強風の様に舞う灰色の法撃。

 六番隊は風属性を主とする法撃魔法部隊だ。


「翼人機が――三機か」

 目で追える翼人機は三機。横臥はため息をつく様にそう言った。


「あんなのが三機もあるのね」

 横臥の言葉に藍もため息をつく。


「もしかしたら、前回以上かもしれませんよ。――性能は」

 現場には翼人機を作ったあの葛城さんがいるらしい。

 本当ならば、必然的に翼人機は強化されているはずだ。

 やはり、今までの翼人機はこのための動作確認だったのだろうか。


 これから、何かが起きようとしている。

 それか、すでに起きているのか。


 見知った光景にも関わらず、知らない世界。

 僕らはそんな世界に踏み込もうとしているのか。

 不思議と健悟はそんな気がしていた。


「――だとすれば、今回が本番?」

 つまり、あの翼人機たちは最終調整が終わっている可能性がある。

 空へ飛ぶ翼人機は翼を強く動かし、舞っていた煙を晴らした。


 地上にいる二十人の隊員。

 その斜め上を浮上する三機の翼人機。


 一刀の洋風の大剣を持つ赤き翼人機。

 二丁のライフルを持つ青き翼人機。

 二刀のサーベルを持つ黒き翼人機。


 各々違う装備。機器単体の性能も違う可能性がある。

 その静止画は、まるで人間を見下す機械・技術の様だった。


 いつしか、技術が発展すれば、

 彼らは僕らに敵意を向け、彼らに従う日々が来てしまうのだろうか。


「まさか――な」

 その風貌を見て、健悟は嫌な予感がしていた。


「藤堂」

 見通した顔で横臥は淡々と告げる。


「はい」


「あれの破壊が任務だろう?」

 熱気がある鋭い視線を健悟へ向けた。


「そうです」

 確保など甘い考えはもう無い。そんな余裕など、初めから無いのだ。


「なら、もう行くぞ。さすがに法撃の六番隊では、あの翼人機たちは相性が悪いだろう」


「――そうですね。お願いします」


「わかった」

 横臥はそう言うと、赤き大剣を担ぎ走って行った。


 次第に加速して行くその技。

 超速(ラピード)と言う歩行魔法の一つだ。


「私も行くわよ。藤堂くん」


「お願いします」

 藍も超速を使い、一直線に翼人機の方へと向かって行く。


 すると、翼人機の前で透き通る様な暴風が吹き荒れた。


「あれは――オラシオン」

 吹き荒れる暴風。駿介の持つ二本の脇差、オラシオンの暴風斬だった。

 と言うことは、駿介はあの戦いの渦中にいる。


「坂上も――か」

 巻き込まれたのか、自ら加勢に向かったのか。

 どちらにせよ、二人はすでにあそこにいる。その事実は変わらない。


「健悟は行かないの?」

 戦況を眺める健悟に、後ろにいた咲が不思議そうな顔で言った。


 無論、行かねばならない。

 あの二人が加勢し、相羽と坂上がいたとしても、勝てる相手では無かった。


 六番隊と共闘しても、勝敗は断言出来ない。


 それほどなのだ。翼人機と言う兵器は。

 健悟は小さくため息をついた。


「行くさ。もうすぐ」

 そう言う中、横臥は赤き翼人機、藍は青き翼人機と交戦する。

 黒き翼人機は、駿介たちと六番隊が応戦していた。

 赤き翼人機も青き翼人機もどこか、横臥たちの魔力と似た魔力を感じる。


「やはり――組み込まれているのか」

 前回の翼人機が記憶した彼らの魔力。それが反映されているのかもしれない。


 この短時間でそれが出来るのか。

 ――いや、それを可能とするのが葛城さんだ。

 その仮説が正しければ、僕の魔力も搭載されている恐れがある。


「この目で確かめる方が早いな」

 健悟が超速を発動し、現場へ向かおうとする。


 その瞬間、健悟の背後で突然、空間が歪んだ。


 空間が震え軋むと、轟音と共に空間に黒い煙が生まれた。


 転移とも言える空間移動魔法。

 それは高難易度の移動魔法だった。


「なっ!?」

 慌てて健悟は咲を庇う様に前に立つ。


 この魔法が出現した。

 必然的に魔力の高い何者かがそこにいる。


 黒い煙が晴れた頃。

 そこにいたのは、長身で白衣を着た白髪の男性だった。


「――やあ、藤堂くん」

 挨拶をするかの様な何食わぬ顔。堅実そうな雰囲気をした男。


 この男こそ――葛城喜一郎。

 本人の出現に健悟は言葉を失った。


 健悟は葛城と面識があった。

 魔法部の隊長として、彼の元へ訪ねたことがある。


 しかし、今の葛城は以前と雰囲気が違った。

 技術者と言うよりも、僕らと同じ魔導師の様な雰囲気。

 今の葛城は、威圧感のある禍々しい何かを纏っていた。


「君がここにいるってことは・・・・・・。戦っているのは――二番隊か」

 翼人機の方を向き、葛城は納得した様にゆっくりと頷く。


「・・・・・・ねえ、健悟」

 健悟の背中に隠れる咲は不安そうな声を出す。


「ん?」

 怯えているのか、僕の上着を強く掴んでいた。

 不可思議な禍々しい葛城の雰囲気に、咲は酷く怯えている。


「あの人は・・・・・・?」


「あの人は葛城喜一郎。――翼人機を作った人だよ」

 健悟は静かな敵意を葛城へと向ける。


 その通りなのだ。

 初期タイプから四代目まで、翼人機開発の先頭に立っていた人だ。


「っ?」

 咲は鳥肌が立った様な顔で後退する。


 全ての元凶であり、主犯。

 おそらく、今回の事件は葛城を捕らえれば、事態は大きく変わるだろう。

 そうであって欲しいと、健悟は願った。

 しかしながら、どこかでそれだけでは終わらないこともわかっていた。


「雨宮――咲か。ちょうど良かった」

 咲を見るなり、葛城は咲の素性を理解した。


 ちょうど良かった。

 その言葉の真意を健悟は予測する。


 終焉の創造者、雨宮快斗の一人娘。

 その事実、彼女の持つ膨大な魔力を。


「葛城さん、どうしてあなたがここにいるんです?」


「無論だよ。藤堂くん」

 右手人差し指を左右に振り、葛城は健悟の言葉を否定する。


「――翼人機ですか」

 抱いていた疑問は確信へと変わった。


「そうだよ。ここ数日の翼人機は動作確認。――わかるだろ?」

 無論だよ。口癖の様に葛城はそう呟いた。


「そうですね」

 説明は不要。察する様に健悟はゆっくりと頷いた。


「まあ、供給源に困っていたが――それも上手く行きそうだ」

 そう言うと葛城は、視線を健悟の後ろにいる咲へと移した。


 その瞬間、衝撃波の様な魔力が葛城から放たれる。

 葛城から感じる明らかな敵意。本当に彼は敵なのだ。


 彼の目的が一つ追加されてしまった。それは咲の捕獲。

 彼女の魔力ほど、翼人機の動力源に適した人材はいない。それは紛れも無い事実。

 彼女から魔力を抽出し、翼人機のコアにその抽出した魔力を搭載する。

 さすれば、光属性の翼人機が完成するのだ。

 客観的に、この現代で彼女ほど最適な供給源は存在しないだろう。


 しかし、僕はそれを許さない。絶対に許さない。

 例え、勝算がわからない相手だとしても――魔族だとしても。


「やる気ですか。――葛城さん」

 一瞬、健悟は殺気を込めた魔力を放つ。


「無論だよ。そこに良い材料があるのだから」

 小さな笑みを浮かべると、葛城は右手をかざす様に健悟へ向けた。


 右手の前に灰色の魔法陣が出現すると、魔法陣から風属性の斬撃が発生する。

 対抗する様に春風を抜刀し、そのまま斬翔を放ち、魔法陣の斬撃と相殺させた。


「まさか――オラシオンの斬撃か?」

 魔法陣から放たれた斬撃から感じた見覚えのある魔力。

 駿介が使うオラシオンの斬撃とよく似ていた。


「ご名答。よくわかったね」

 目を見開き、葛城は感心した顔をする。


 再び、右手を健悟へ向けた。

 すると、赤色の魔法陣が出現する。


 そこから放たれたのは、炎の法撃。

 燃え滾る様な紅蓮の炎。


「須藤先輩の炎か」

 健悟は魔法壁で防ぎながら、目の前にある炎を観察していた。

 この炎の性質。横臥の持つ炎属性だった。


 魔力を集束させた魔法壁。

 それでも容易には防げない威力。


「須藤先輩よりは――弱いな。吸収して再利用しているのか?」

 属性密度は横臥の炎よりも低い。


「そうだよ。これらの技は翼人機が受けたものだよ」

 そう言うと葛城は、右手をぱちんと鳴らした。


 突如、葛城の背中から黒い翼が生える。

 そして、翼をゆっくりと動かし、上空へと浮上した。


「どうだ? 凄いだろ?」

 見下ろす様に葛城は自慢げな顔を健悟へ向けた。


「飛翔魔法――。翼人機の飛翔の応用か?」

 目を細め、その事象を冷静に分析する。


「ほお。お前は何でもわかるんだな」


「それなりに」

 自身を落ち着かせる様に、春風を一度鞘にしまった。

 わからないものはわからない。わかることは最大限に使いたい。


「さすが、終焉の創造者の弟子と言ったところか」

 感心した様に鼻を鳴らした。


「よく知っていますね」

 葛城の言う通り。僕は第二支部長、雨宮快斗の弟子である。

 入隊するまでの三年間、彼から剣技と魔法を教わった。


「そりゃ、わかるとも。無論――世界の終焉もな」

 そう言うと葛城は右手を健悟向け、かざした。


 右手から空間に響き渡る波動。

 高濃度の魔力が葛城の右手に集束していた。


「――さらばだ」

 告げる。その瞬間、右手から放たれる高濃度の風属性の法撃。


 空間を押し潰す様な勢いで、健悟へ一直線に向かった。

 健悟はゆっくりと息を吐き、春風を抜刀する。


「魔装」


 詠唱の様な言葉。

 呼応する春風。


 闇属性を纏い、抜刀された刀身が一瞬で黒く光り輝いた。


 断ち切る。そのイメージを基に、健悟は迫る突風を一刀両断する。

 半分に断ち切られた突風は行き場を無くし、その場で強風となり弾けた。


 魔装。

 属性を持つ魔力を武器に纏わせる付加魔法の一つ。


「あそこにいる六番隊の隊員、全員分の法撃だぞ――?」

 目の前の光景に葛城は目を見開いた。


「ええ」

 葛城を前に健悟は息を切らしながらも頷く。

 あの高濃度の突風を、一瞬でかき消すほどの魔力を僕は使った。


 もう魔力はほとんど残っていない。

 自発的と言うよりも、気がつけば無くなっていたと言う感覚。


「俺も出せる技が無くなった」

 わざとらしい困った顔で、葛城は大きくため息をついた。

 俺も――。つまり、僕の魔力が無くなったことに気づいている。


「・・・・・・?」

 緊張感が漂う。春風を構え、攻撃に備えていた。


「だから――」

 葛城は右手を上げると、指を鳴らした。


 それが合図か、葛城の目の前に黒き翼人機が召喚される。

 慌てて健悟が後ろを向くと、六番隊と戦っていたはずの翼人機の姿は無かった。


「これを君らは――転移と言うのかな?」

 不敵な笑みを健悟へ向ける。


「そうですね・・・・・・」

 戸惑いながらも、健悟は答えた。


 おそらく、六番隊も劣勢だったはず。

 結果的に彼らが休める状況になったのは大きい。

 しかし、問題はこれからである。健悟は大きく息を吐いた。


「さて、第二ラウンドと行こうか」

 笑みを浮かべ、葛城は見物する様に上空へと飛翔する。


「待て――!」

 春風を構え、斬翔を放とうとした。

 葛城の盾となる様に、黒き翼人機が行く手を阻む。

 斬翔を放つが、黒き翼人機のサーベルに粉砕された。


「このタイミングか――っ」

 最悪。健悟の魔力は底を尽きかけていた。


 黒き翼人機は傷一つ付いていない。まさに第二ラウンド。

 二丁のサーベルを構え、翼人機は健悟へと向かって行く。

 何度も何度も紙一重で避けていた。最低限の体力で。

 魔力も体力も、無駄に減らすわけにはいかなかった。


 赤き翼人機も青き翼人機も健在。

 どうやら、先輩たちも苦戦を強いられている様だ。


 健悟は逃げる様に大きく後退すると、ため息をつく。


「さて――と」

 どうするか。気持ちを落ち着かせようとするが、中々落ち着かない。

 剣技だけで勝てるか――。考えたが、想像が出来なかった。

 想像が出来ないならば、現実的では無い。それが健悟の考え方だった。


「――変えた」

 すると、眉間にしわを寄せ、唐突に葛城は言った。


「変えた――?」

 葛城はいったい何を変えたと言うのか。


「私は考えを変えたよ。この場で君も雨宮咲も始末する。やはり、君らの存在はこの魔法都市にとって――厄介だ」

 何を考えたのか、睨む様な鋭い眼差しを健悟へ向けた。


 殺気。

 葛城から感じる、紛れも無い殺意。


「っ――」

 嘘では無い。葛城は本気で僕らを殺そうとしている。


 咄嗟に咲の前に立った。

 何も考えず、反射的に身体が動く。


「健悟?」

 葛城を見て、怯えた様に咲は不安な顔をする。


「咲、僕が言った防御壁は出来るね?」

 先日、咲の入隊前に僕は防御壁を教えた。

 二番隊に入る以上、いざと言う時に自身を守る技が無いといけない。


「・・・・・・うん」

 咲は両手を前にかざすと、自身を包む様に防御壁を展開する。


 彼女の魔力なら、大抵の攻撃は防げるはずだ。

 問題は僕の方。現時点で魔力はほとんど残っていなかった。

 そんな中、黒き翼人機は二丁のサーベルを振りかざし、健悟向け斬撃を放った。


 刻々と迫る斬撃。避けるか――。

 そう考え、周囲を見渡した。


 背後にいたのは――咲。

 果たして、彼女のあの防御壁はこの斬撃を防げるのか。


「――無理だろうな」

 せっかく展開したが、きっと粉砕されるだろう。ならば、結論は出ていた。

 健悟は春風を構え、防御の構えを取る。


 全身全霊で、僕が盾になる。

 もう僕には、あの斬撃を壊せるほどの魔力は残っていなかった。


 迫る黒き翼人機の斬撃。

 目を瞑り、健悟は歯を食いしばった。


 死の間際。

 健悟の脳裏で咲の笑顔が浮かんだ。


 その瞬間、健悟の目の前で膨大な魔力が発生する。


 翼人機の斬撃が消滅した。

 その気配を感じ取り、健悟はゆっくりと目を開ける。


 掻き消された黒き翼人機の斬撃。


 そして、一人の男が翼人機の前に立ちはだかった。


「よう――藤堂」


 健悟の目の前にいたのは、

 六番隊『風刃嵐舞(シルフィード)』隊長、緒方宗司。

 緒方は三十代だが、若々しい青年の様な姿をしていた。


「緒方さん、どうして――」

 この状況に健悟は言葉を失った。

 六番隊隊長。どうして、この男がここにいるのか。


「そりゃ、俺が応援を要望したんだから、俺も来るさ」

 それに用事が終われば来ると言っただろ。緒方は笑顔で言った。


 緒方は両手に何も持っていない。言わば、手ぶらだった。

 しかしながら、黒き翼人機の斬撃は緒方が消した。

 自身の法撃を用いて。その事実は変わらない。


「緒方宗司か――。お前まで来るとはな」

 葛城は緒方を見るなり、目を見開いた。


 二人は十年以上、付き合いのある関係。

 それ故、互いの思想も理解しているつもりだった。

 この時までは――。


「お久しぶりですね。葛城さん」

 面と向かって話すのは、二年ぶり。


「そうだな、緒方くん」


「なぜ、あなたが都市に敵意を向けるんですか?」

 緒方は結論を急いだ。ここは戦場、昔話などする余裕など無い。


「敵意――。そうか、これは君ら都市を守護する者からすれば、敵意なのか」

 気がついた様に顔を上げ、葛城は頷いた。

 敵意と言う意識は無い。しかし、見方を変えれば、これは敵意にもなる。


「ええ。そりゃ、明らかな」


「私共としては、世界の大きな一歩と思っているんだがね」

 弁解する様に葛城は告げた。


「――私共ですか」

 途端に緒方の目つきが変わる。緒方を軸に螺旋する突風が吹き荒れた。


「さて――。それで、今度は緒方くんが私と翼人機の相手をしてくれるのかい?」

 本題へと話を戻すと、葛城は不敵な笑みを緒方へ向ける。


「まあ、そうなりますね」

 お前は魔力を回復しろ。背後にいた健悟にそう告げた。


「わかりました・・・・・・」

 健悟は従う様にゆっくりと頷く。

 緒方は隊長としての期間が長く、健悟の先輩の様な人物だった。


「なら――容赦しないよ」

 目を見開いた葛城は右指を鳴らし、黒き翼人機へ合図を送る。

 指示に従う様に黒き翼人機は緒方向け、サーベルの斬撃を放った。


 迫る二対の黒き斬撃。

 緒方は驚くことも無く、両手をズボンのポケットに入れている。


 空を見上げるその姿。

 とても戦う姿には見えなかった。


「――疾風(ゼスト)」

 呪文の様に告げると、緒方の前に灰色の魔法陣が浮かんだ。


 灰色の魔法陣から高濃度の風属性の法撃が放たれ、黒き斬撃と対峙する。

 相殺。その衝撃で周囲に暴風が吹き荒れる。


「藤堂、あれ破壊するぞ」

 目を細め、緒方はめんどくさそうな顔で黒き翼人機を見つめた。


「構いません」

 健悟は強く頷く。破壊しか選択肢は無いのだ。


「了解」

 そう言うと緒方は、楽しそうに笑みを浮かべた。

 右手を水平に構え、解放する様に拳を開く。


「――風刃(ふうじん)」

 何かを発動する様な口調。緒方の右手に、風属性の魔力が集束していった。

 やがて、その風属性の魔力は、灰色の刀へと形状を変化させる。


 灰色の風刀、風刃。

 それこそ、六番隊の名を背負う緒方の武器だった。


「さあ、行こうか。最強と言われた、かつての機人よ」

 不敵な笑みを浮かべると、緒方は左手を地面へと勢い良くかざした。

 かざした反動か、勢い良く緒方は上空へと舞い上がる。


 そして、両足で空間を蹴り上げる様に空を移動する。


 まさしく、その光景は――飛翔。

 翼を生やす様な飛翔魔法とは違う。

 健悟の知る限りでは、彼だけにしか出来ない芸当だった。


 これが――六番隊『風刃嵐舞』隊長、緒方宗司。

 空中を舞う風の剣士。

 健悟は真剣な緒方の戦いを見るのは初めてだった。


「行くぞ――」

 黒き翼人機とは逆方向の空間を蹴り上げ、黒き翼人機へと向かって行く。

 それに対抗する様に、黒き翼人機は二丁のサーベルを緒方へ振りかざした。


 風刃を振りかざし、緒方は黒き翼人機のサーベルの一丁を一刀両断する。

 その後、空間を蹴り上げ、葛城よりも遥か上空へと舞い上がった。


「風刃――充填」

 緒方は右手で構えていた風刃を頭上へと上げた。


 空気が集束されるが如く、魔力が集束していくその光景。

 まるで、自然から魔力を得ている様にも見えた。


 風属性の魔力は自然界にも存在する。

 そこからも吸収しているのかもしれない。

 健悟は呆然とその光景を眺めていた。


 数秒後。

 緒方は目を見開くと、風刃の魔力が解放される。


 風刃から放たれた波動。

 次第に刀身の周りに灰色の霧が立ち込めた。


「これが長年、その席を維持する隊長格の力か。――終焉の創造者に近い者の一人」

 その光景に、葛城は感心した顔でそう言った。


 世界を改変した終焉の創造者に最も近い者。

 それが魔法特殊部隊 隊長格。


 集束されていく膨大な魔力。

 密度で言えば、横臥の炎刃一閃を遥かに超えていた。


「さすがに、あの攻撃は黒き翼人機だけでは――敵わんな」

 そう言うと葛城は、両手を左右に広げて魔力を開放する。


 すると、左側に青き翼人機、右側に赤き翼人機が召喚された。


 横臥と藍がいる方の翼人機の気配が消えたことから、黒き翼人機と同じ転移である。

 翼人機を召喚したのか。それとも、本当に転移魔法なのか。

 どちらにせよ、高度な空間魔法で翼人機を出現させたのは間違いなかった。


「すまないね、緒方くん。四対一で行こうか。無論、こちらが四だよ」

 

 空を舞う三機。

 その頭上に君臨する一人の人間、葛城喜一郎。


 機械を支配する人間。

 まるで、その言葉を具現化した光景。


「構いませんよ。すぐに一になりますから」

 緒方は何食わぬ顔で翼人機の方へ身体を向けると、風刃を後ろ向きに構えた。


 そして、空間を蹴り上げ、青き翼人機へ突撃する。


 一瞬。青き翼人機を通り過ぎ、緒方は青き翼人機の背後にいた。

 振りかざされた風刃。その瞬間を健悟は見切れなかった。

 遅れた様に青き翼人機は砂の様に粉砕される。目に見えぬ風属性の剣撃。


 すぐさま、緒方は風刃を赤き翼人機に向け、垂直に振りかざす。

 風刃の刀身から、数ミリの厚さを持った灰色の斬撃が放たれた。

 灰色の斬撃に赤き翼人機は透過する様に切断され、ゆっくりと分割してその場に沈む。


 緒方へ向け、サーベルを振りかざす黒き翼人機へ向け、風刃を槍の様に投げた。

 風刃に触れた瞬間、黒き翼人機は触れた部分から、繊維が破壊された様に跡形も無く消滅していく。


 一分にも満たない戦闘。

 瞬きすらも惜しい時間。


 気がつけば、三機の翼人機は消滅していた。


「な――っ?」

 あっという間の出来事。葛城は言葉を失った。無論、健悟も。


「葛城さん、すみませんね。あなたが敵ならば、私も本気で行きますよ」

 緒方はそう言うと、風刃を再び手元に出現させる。


 そして、葛城へ向け、風刃を横に振りかざした。


 刀身から飛び出す灰色の斬撃。

 その斬撃は方向を変え、葛城に逃げる隙を与えることなく、黒い翼を切り裂いた。


「なっ――!」

 重力に抗うこと無く、葛城は地面に落とされる。

 地に膝をつき、葛城は困惑の表情をしていた。


 圧倒的なその力。

 健悟は呆然とその光景を見つめていた。


「さて――終わらせるか」

 緒方は顔を上げると、ゆっくりと葛城に近づいていく。

 風刃を構え、最後の一撃を蓄えていた。


「緒方――っ!」

 目を見開き、葛城は悲痛なうめき声を上げ、起き上がる。


「・・・・・・教えて下さい」

 緒方の後ろにいた健悟が聞く。

 この頃には、健悟の魔力は半分以上回復していた。


「何をだ?」

 ふらつく足取りで、葛城は困惑の眼差しを向ける。


「なぜ、反乱を・・・・・・?」

 健悟の言葉に、緒方も同意する様に頷く。

 わからなかった。翼人機を作った人が、どうして都市を裏切ろうと思ったのか。


「反乱――。私はね、変えねばならないと思ったからだよ」

 葛城は解せない顔で返事をする。


「変えねばならない?」

 なぜ、変える必要があるのか。それすらもわからない。


「この世界を。――次の世界へ移行する為に」


「次の世界だと――?」

 何を考えたのか、緒方は目を見開き驚いた。


「それは――」

 葛城がゆっくりと口を開いた。


 その瞬間、健悟たちの背後で禍々しい魔力が発生する。

 位置からして、咲がいる場所。慌てて健悟は振り向いた。


 そこにいたのは――黒服の男。

 咲の防御壁の前に立っていた。


「――おや、どうも」

 振り向いた健悟と目が合い、男は不敵な笑みを浮かべる。


 長身。黒いフードを被ったその姿。

 中の容姿は判断出来なかった。


「おい、藤堂」

 火花の様に緒方の魔力が散る。明らかな殺意が緒方にはあった。

 それは健悟も同じ。健悟たちが何も感じることなく、この男はここにいる。


 無論、只者では無い。

 問題は敵なのか、味方なのかだ。


「おお。来てくれたのか――ヘンリル」

 葛城は男、ヘンリルを見るなり、ホッとした顔で微笑んだ。


「今ここで、お前を失う訳にはいかないからな」


「それはどうも――」

 安心した様に葛城は大きく息を吐いた。


「それでどうした、その姿は」

 ヘンリルは僅かばかり驚いた声で告げる。


「無論だよ。――目の前にいるだろう。強者が二人」

 そう言うと葛城は、視線を健悟たちへと向けた。


「それもそうか。――さて」

 察した様に頷くとヘンリルは、右手を咲が展開した防御壁へと向ける。

 右手から衝撃波が発生すると、一瞬にして咲の防御壁が消滅した。


 消滅。

 まるで、無力化された様な光景だった。


「えっ――?」

 咲はその光景に呆然とする。


「まずはこの子を手中に収めるとするか」

 ヘンリルはゆっくりと咲へ近づいていく。


 さっきの技。僅かながら、闇属性の魔力を感じた。

 僕では無い、闇属性を持つ者。


 まさか、あの男は――。

 考えられる可能性は一つだった。


「咲! 離れろ!」

 健悟は春風を抜刀し、すぐさまヘンリルに斬りかかった。


「おっと」

 ヘンリルは驚いた様にその場から離れ、葛城の隣へやって来る。

 殺す様な鋭い目つき。健悟はヘンリルを睨んでいた。


 間違いない。

 奴は今、咲に危害を加えようとしていた。


「藤堂、奴は何者だ」

 健悟と同じ様な睨む目つき。


「おそらく――人では無いかと」

 ヘンリルを包む人ならざる者の気配。僕はその気配の理由を知っていた。


「ほお――わかるのか」

 健悟の言葉にヘンリルは感心した顔で言う。


 すると、ヘンリルの動きで被っていたフードがめくられた。

 中性的な美男子。ヘンリルは西洋の美男子の様な容姿をしていた。


「それでお前の目的は何なんだ」

 強めの口調で健悟が告げる。


「次の世界へ誘う者だよ」

 ヘンリルもまた、葛城と同じ目的だった。


「誘う者・・・・・・。どうして、咲の防御壁を破壊した?」


「そりゃ、貴重だからだよ」


「貴重?」


「彼女の血は――な」

 そう言うとヘンリルは目を見開き、魔力を開放する。

 周囲を包む、禍々しい漆黒の魔力。健悟と同じ闇属性だった。


「・・・・・・やはりか」

 健悟は納得した顔で歯を食いしばった。

 ヘンリルの目的は、咲が持つ魔力。おそらくは、それの根絶だ。


「おや、ヘンリル。君がやるのかい?」

 ふらついた足取りながらも、葛城は嬉しそうに笑みを浮かべる。


「そりゃ、葛城。君がその状況だと僕がやるさ」


「無論――か。よろしく頼むよ」

 そう言うと葛城は、ヘンリルへ右手を差し出した。

 ヘンリルも右手を差し出し、二人は握手をする様な素振りをする。


 すると、葛城の右手が光り、その光はヘンリルの右手へと移管される。

 移管される何か。それはまるで、魔力の様。


「ああ。任せとけ、私が人間に負けるはずないだろう」

 そう言うとヘンリルは、右手を健悟へ向けた。


 その瞬間、黒い魔法陣が出現し、黒い法撃が健悟たちへと向かう。


「まずいっ!」

 緒方は咄嗟にその場から離れた。

 健悟も離れようとする。だが、健悟の後ろには咲。その遠い後ろには、隊員たちの姿が見えた。

 ヘンリルはそのすべてをわかった上で放ったのだろうか。


 膨大な魔力。今の彼らがそれを防げる確証は――無い。

 最悪な事態を想像する。ここで止める。それしか選択肢は無いのだ。


「やるしか――無いのか」

 導き出された選択肢。健悟は覚悟を決める様に、大きく息を吐いた。


 回復した僕の魔力。

 今の僕が持てる、すべてを――ここに。


「――属性開放」

 黒い法撃の前で健悟は春風を抜刀する。


 解放される魔力。

 ヘンリルと同じ闇属性の魔力だった。


 風属性では勝てない。

 僕もこの属性を解放しなければ、勝てないと確信した。


 そして、黒い法撃を春風の黒い斬撃で振り払う。


「なっ――」

 目の前の光景にヘンリルは言葉を失った。


 一掃された黒い法撃。

 不思議と視界が晴れる。


「――お前、人間では無いな?」

 晴れた世界。ヘンリルは殺気を健悟に放った。


「・・・・・・半分は」

 そう言うと健悟は、防御壁を咲の周りに展開する。

 あるだけましだろう。砂煙など軽微なものは防げるのだから。


「半分――。ははっ」

 信じられないと言わんばかりに、ヘンリルは笑った。


「何がおかしい?」


「まさか――半魔の賢者か?」

 察した様に目を見開くと、ヘンリルは笑みを浮かべる。


 半魔の賢者。

 ヘンリルが告げたその言葉。

 それは魔族と人間の間に生まれた健悟を差す言葉だった。

 紛れも無く、目の前にいるヘンリルと同じ魔族の血が健悟には流れている。


「そうだよ」

 健悟は小さく頷いた。ここで否定する理由も無いだろう。

 その名で僕を呼ぶのは――君ら(魔族)だけだ。

 ここでの僕は、他の人間と何一つ変わらない。

 ただ、闇属性の魔力が使える――それだけの違いだ。

 少なくとも、僕は生まれてから今までそう思っている。


「親が我らを裏切らなければ、不幸と言うべき数奇な運命を辿らずに済んだのにな」

 可愛そうに。哀れむ様な眼差しをヘンリルは健悟へ向けた。


「――そうとも言えないよ」

 落ち着いた口調で健悟は返す。


 親からは過去の話を聞いたことが無かった。

 どちらにせよ、両親が出会わなければ、僕はこの世に存在しない。

 生まれて来なければ、こうして考えることも、咲と共にいることも出来なかった。

その事実は変わらない。

 だから、僕はこの運命が不幸だとは思わないよ。


「・・・・・・そうか」

 俯くヘンリル。次第にヘンリルの魔力が増大していく。


 見る目が変わった。

 今、ヘンリルの目の前にいるのは、もうただの人間では無いのだ。


「半魔の賢者よ」


「なんだい?」

 常に緊張の糸を張り巡らせる。一瞬の油断が死に繋がる状況なのだ。


「我が名はヘンリル・セーレン。君の予想通り、魔族だよ」

 ヘンリルは淡々と名を告げる。


 そして、右手を鳴らすと、健悟の頭上に巨大な岩石が出現した。


 出現した瞬間から、自重に逆らえず、巨大な岩石は落下する。


 転移魔法。

 空間移動魔法よりも遥かに速く、転移出来る物体が大きい。


 健悟は理解した。

 葛城が使っていたあの魔法は、ヘンリルのものであることに。


「なっ――」

 空を見上げ、健悟は岩石の大きさに言葉を失った。

 大きさからして、咲のいる場所も範囲に入っているだろう。


「我が力は触れた物を転移させる力。この力で混血も光の血も根絶させる」

 葛城にはあくまでも、その力の一部を渡していただけなのだ。


 僕の混血も、咲の光の血も根絶させる――か。


「っ!」

 健悟は勢い良く春風を頭上に振りかざした。

 感情的に高ぶる魔力。健悟の中で怒りに似た感情が込み上げていた。

 春風の黒い斬翔により、岩石は一瞬にして粉砕される。


「根絶――か」

 殺気が込められた鋭い目つきをヘンリルへ向ける。


 魔族ヘンリル。

 君がその気なら、僕も君を殺す気で行く。


「それで藤堂、どうする?」

 健悟の隣に戻って来た緒方が緊張感のある声を出す。

 どうするとは。この現状をどの様に打破するかと言うことだろう。


「緒方さんは葛城の確保をお願い出来ますか?」

 それに緒方さんの風属性は、闇属性との相性は悪い。


「――わかった。終わり次第、加勢する」

 そう言うと緒方は、一直線に葛城へと向かった。

 分散する様に健悟もヘンリル向け走ると、黒い斬翔をヘンリルに放つ。


「分かれたか」

 不敵な笑みを向け、ヘンリルは黒い法撃で黒い斬翔に対抗した。


「ええ。あなたを倒すのは、僕なので」

 淡々と告げながらも、黒い斬翔を何度も放つ。


 目には目を。

 ――闇には闇を。


「ほお――」

 そう言うとヘンリルは黒い斬翔を避けながら、大きく後退した。

 大きく息を吸うと、ヘンリルへと魔力が集束していく。


 大技か、法撃魔法か。

 どちらにせよ、油断は出来ない。


「魔弓・セーレイン」

 ヘンリルはそう言って右手を前にかざすと、湾曲した黒色の弓が出現する。

 全長、2メートルはあるその弓は、木製で禍々しい何かを纏っていた。


「魔弓――か」

 ヘンリル魔族たちが住む、魔界と呼ばれる世界。


 魔弓とは、その魔界にある物質で形成された武器なのだ。

 おそらく、あの木の材質もこの世界の物では無いだろう。


「魔連矢(ダモクレス)」

 ヘンリルは淡々と告げると、弓を引いた。


 弾力のある弦を引くと出現する黒き矢。

 空間を抉る様に撓り、迫って行く黒き矢。

 銀色の矢先には、闇属性の炎が付加されていた。

 躊躇うこと無く、ヘンリルは何度も弓を引いていく。


 迫りくる数多の黒き矢。

 健悟は超速を使い、迫りくる黒き矢を避けて行った。


 地面に突き刺さる黒き矢。

 一瞬にして、矢の長さほどの地面を消滅させる。


 闇属性が持つ事象は風化。

 万物を風化させる魔の力。


 魔連矢を避けながらも、健悟は春風の刀身へ魔力を集束させていた。


 ヘンリルを倒せるほどの一撃。

 避けることも、回復することも出来ない一撃を。

 呼吸する意識すら惜しい。それほど、健悟は魔力を研ぎ澄ませていた。


「――なら」

 悔しそうな顔でヘンリルは、弓を咲へと向ける。


 そして、弓を引いた。

 咲へと一直線に向かう黒き矢。


「っ!」

 健悟は超速ですぐさま、咲の前へと立つ。

 自身が展開した魔法壁など、黒き矢の前では無に等しい。


 集束させた魔力を開放するか――。

 刹那、健悟は考えた。


 解放の一撃。

 これはヘンリルへの一撃で使いたかった。

 並みの攻撃では、この黒き矢は破壊出来ない。


「――なら」

 覚悟を決めた様に健悟は息を吐いた。


 右手で握る春風に全力を。

 意識を失いかけても、この一撃は必ず当てる。


 そして、黒き矢は突き刺さった。

 ――健悟の左肩に。


「受けた・・・・・・だと?」

 目を見開き、ヘンリルはこの光景に驚いた。


 左肩から流れるヘンリルの魔力。

 痺れる様な激痛が脳内を支配する。

 激痛のあまり、健悟は気を失いかけた。

 しかし、ここで倒れる訳には――いかない。


「行こうか――ヘンリル・セーレン」

 痛みを堪える様に大きく息を吐くと、健悟は顔を上げる。

 動揺するヘンリルの前に現れ、春風を大きく上げた。


「魔刀一閃――」

 健悟の言葉に呼応する様に。

 春風の刀身から濃縮された闇属性の魔力が解放される。

 息を吸う様に、再びその魔力は刀身へと戻った。


 春風をヘンリルへ振りかざすと、ヘンリルの胴体に大きな切り傷が生まれた。

 切り傷から溢れる鮮血。

 痛みにあまり、ヘンリルは大きくふらついた。


「な、なんだと・・・・・・?」

 健悟の攻撃にヘンリルはよろめき、体勢を崩す。


「――これが僕の最善だよ」

 ゆっくりと後ずさり、健悟は右手で左肩に刺さった黒き矢を抜いた。


 左肩の傷口からゆっくりと垂れる血。

 次第に脱力感を健悟は覚えた。


「お前は俺に一撃を加えるために、わざとその攻撃を受けたのか・・・・・・?」

 ふらつき、大きく吐血する。ヘンリルはもう戦える状態じゃなかった。


 胴体に刻まれた深い傷。

 本来であれば、即死の一撃のはずだ。


「ああ。そうだよ」

 霞む世界。不思議と身体が自由に動かせない。


「――ちくしょう」

 眉を狭め、ヘンリルは一言告げると、その場に倒れた。

 呆然とその光景を眺め、健悟は安堵した様に息を吐く。

 気がつけば、健悟もその場に倒れていた。


 こうして、僕の戦いは終わったのだ――。

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