第327話 全てを失った
リリカは駅を抜け出し自宅に帰る、話を聞いたとはいえ、本当だとは限らない、家に帰れば父がいる宿が待っているのでは無いかと思ったのだが・・・
「此処には入らないように。」
兵士と神父がやって来て宿を封鎖していた。
「あ、あの、この宿に用事があって・・・」
「ここの宿には誰もいないよ、ここは聖域でありながら風俗を営業していた穢れた宿、教会が差押え、年月をかけて浄化していく予定です。」
「そんな・・・
ここは私の家なのに・・・」
「私の家?そういえばこの宿には二人の娘がいたはず。
君、少し話を良いかい?」
神父のリリカを見る目には優しさなんかでは無い、宿に来ていた男と同じように欲にまみれた目に感じる・・・
「人違いです!失礼しました!」
「君、待ちたまえ!君の汚れた魂も浄化する必要があるんだ!おい、捕まえろ!」
神父が兵士に命じてリリカを捕まえようとするが、リリカは人混みに紛れ上手くその場から逃げる事に成功していた。
「グスン、なんでこうなるの・・・
私はただ売春をしたく無かっただけなのに・・・」
行く宛の無かったリリカは涙を流しながら再び駅に戻って来ていた。
「リリカちゃん、どうしたんだい?」
泣いているリリカをマナブが見つけて声をかける・・・
「マナブさん、家が・・・
私の家が無くなってたの・・・」
「家が無くなってた?」
「うん、もうどうしたらいいの・・・」
リリカはマナブにしがみついて大泣きするのであった。
マナブは泣いているリリカを部屋に連れていき落ち着かせた後、ゴウに状況の確認をお願いしにいく。
「宿が無い?」
「はい、リリカさんの言う事によると宿は教会が差押えしていたようです。」
「わかった、ちょっと聞いてみるよ、」
俺はマーサを通して確認すると、聖域で行われた売春行為の結果、教会への賠償として宿が差押えされた事がわかる。
俺はその事をマナブと日にちが経ち少し落ち着いたリリカに話す。
「そんな、それじゃ私はどうすれば良いんですか!」
「俺が提示出来るのは此処で店員として働くか、此処を出て一人で生活をするかだね。
リリカちゃんは親戚とかいないのかな?」
「・・・いません、お父さんは親戚の反対を押し切って駆け落ちして王都に来たって聞いてます。」
「そうか、ならどうする?決めるのはリリカちゃん自身だよ。」
「此処においてもらえますか?
あっ!でも売春したりはしませんから!!」
「売春は求めてないよ、そもそも売春をするなら宿を提供しないから、そのつもりでいて。」
「・・・言っておきますけど、ゴウさんが求めて来てもしませんよ。」
「求めないから、マナブくんの下で従業員として働いてくれるかな?
仕事についてはマナブくんに説明を受けて。
マナブくん頼んだよ。」
「わかりました、リリカさん。
よろしくお願いします。」
「はい、お願いします。」
マナブはリリカを連れて部屋から出ていく。
「ゴウ様、何故あのような失礼な物言いを許すのですか?」
隣に控えていたククリは不機嫌そうに話す。
「まだ子供じゃないか、親も失い心も穏やかで無いんだろ、俺が怒ってしまえば更に行き場を無くしてしまうからね。
聞き流せるうちは気にしない事にしておくよ。」
「お優しい事ですが、あの娘がゴウ様のお優しさに気づけるのやら・・・」
ククリは不機嫌そうだが一応の納得をしてくれたのだった。
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