第219話 イーヨ到着、歓迎

魔王国の首都イーヨに到着したのだが・・・

「ミユキさん、ここに行くのはやめましょう。

この先は取り返しのつかない事になりそうだ。」

俺の表情は町の雰囲気を見て引き攣る。

「ここまで来て何を言っているのですか?

一緒に行きましょう。」

ミユキはニコニコと笑顔を見せながら、俺の手を引く。


俺が行こうとしないのには理由がある。

俺達を熱烈歓迎してくれている事はその歓声からよくわかる。

だが垂れ幕に創造神と剣神の一族が結ばれたという事を祝っている、それが自分とミユキを指している事は俺にも理解出来た。


「ミユキさん駄目だって、このまま行っちゃうと誤解が解けないレベルになってしまうから!」

「大丈夫です、何も問題ありません。

それより、皆さんが待っているのですから行かない訳にはいかないと思いますよ。」

駅の前には赤の絨毯が引かれた道が城まで続いており、その道を守るように兵士が整然と並び、更に住民達が一目見ようと詰めかけるように周囲を囲んでいた。


ミユキに手を引かれ、俺達は駅から出てしまう・・・


「ゴウさま!!」

「ミユキさま!!」

「こちらを向いてください!!」

「なんて、これが創造神様と剣神様の御親族なのか・・・

私は生きてて良かった。」

歓声とあまりの喜びから涙を流している様子が見て取れる・・・


「歓迎されていますけど、ただの親戚ですよ?

いいんですか?」

俺は護衛のトウゴに確認する。

「何をおっしゃいます、創造神様と剣神様の血筋なら我等にとって尊い存在です。

皆が御二方をお待ちしております、さあ行きましょう。」

トウゴが俺達を促す中・・・


「素晴らしい、私の来訪をここまで出迎えるとは!

これぞ外交官としての花道を進む私の第一歩に相応しい。」

ローズが先に歩き出す。


観衆からはまだ姿こそあまり見えないものの、階段を降りる姿に歓声は更に大きくなる。

それをローズは両手を広げて受け入れている。


「あの者は頭がおかしいのですか?

あの声を受けて先頭に立つなんて・・・」

アリサすら前に出ることを控えているのに先に出たローズを軽蔑の目で見る。

だが、それは当然すぐに排除される。


「貴様!御二方の晴れ道を穢すな!」

トウゴは一瞬で間合いを詰め、ローズを道端に蹴り飛ばす。

剣を使わなかったのは晴れ道を穢したく無い気持ちとゴウ達への配慮であった。

蹴り飛ばされたローズは壁に激突し、その痛みから気を失う。

「トウゴさん、やり過ぎです!」

「加減はしております、御二方の晴れ道を穢すなど万死を持っても拭い難い!」

「大丈夫ですから、ミユキさんもいいよね?」

「はい、私はゴウさんがいいならそれで・・・」

ミユキは俺を見つめたあとしなだれかかってくる。

「ミユキさん?」

俺がその意図を理解する前に歓声が更に大きくなる。

ローズが蹴り飛ばされた事に俺は慌てて前に進んでおり、ミユキも俺についてきている・・・

つまり俺達はこの大観衆の前で抱き合っているように見えているのだ。


「皆、よく聞け!この御二方こそ、創造神ヨシノブ様の御親族ミユキ様と、剣神リョウ様の御親族ゴウ様である!

今日、この場に立ち会えた事を後世の誉れとするのだ!」

トウゴが当然のように宣言する。


すると大歓声が上がる。


「トウゴさん、なんで宣言するんですか!」

「それは皆が待ち望んでいたのです、これより御二方が来られる事を知らしめる必要があるでしょう。

ましてやあのような痴れ者が出るぐらいですから・・・」

俺がローズに目をやるとアリサ達ジョージア王国の使節の人がローズの手当をしているようだが、多少適当な感じを受ける。


「わかりました、恥ずかしいけど行きましょうか。

カスミちゃん、アヤカちゃんもついて来てね。」

「そうですね、ミユキさんに一歩先を行かれてしまったみたいですけど。」

「ミユキはずるいです。」

カスミとアヤカからのジト目をミユキは受ける。


「あはは、チャンスは有効に使わないと・・・」

ミユキは軽く二人に笑いかける。

「そうですね、ミユキにはやられてしまいましたが・・・

私も。」

「アリサさん?」

アリサが俺と腕を組んでくる。


「ジョージア王国と友好的ということを知らしめる為です。

そうしないとゴウさんを魔王国に取られてしまいそうですので。」

確かにアリサの立場を考えれば俺が魔王国に一方的につくのは避けたいのだろうか・・・

俺が考えを巡らせているうちに二人に連れられて俺達は駅の階段を降りていた。


「アリサさんも既成事実狙いですか?」

「ミユキに先を越されてしまいましたが、私の存在もアピール出来た事は良かったと思ってますよ。」

俺が考えている間、女の子達は互いに牽制していたのだった。

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