第185話 討論会 開始

「そうですか、手紙を届ける事はできませんか。」

「申し訳ありません、ゴウは使えぬ使用人を雇っているみたいで、手紙の一つも届ける事が出来ぬという事でした。」

「ローズ、ゴウさんの家中の方を使えぬなど言ってはなりません、どのような言葉がゴウさんの勘気を買うかわからないのです。

いつ如何なる時も相手への礼節を欠いてはいけません。」

「クロエ王女殿下の寛大なお心に下々の者も平伏することにございましょう。」

「平伏させる必要など無いのです、いいですが友好的に話し合えば相手も協力的に動いてくれるのです。

私達はこの国ではなんの権限も無い身なのです、それを忘れてはいけませんよ。」

クロエはローズを諭すのだが、貴族出身であり近衛騎士としてエリート街道を進んできたローズにとって平民とクロエの間には超えられない壁があるのは当然の事である。

どれだけクロエに諭されてもそれは譲れない物であった。


「クロエ様、討論会の時間にございます。」

「わかりました、行きましょう。」

ローズを連れてクロエは討論会の会場に向かう、そこは周囲をジョージア王国の重鎮達に囲まれ、ルートと直接対面で話し合うような席配置となっていた。


「こ、これは・・・

ルート子爵、今回の討論会は援軍の数についてでは無かったのですか?」

クロエはこの威圧的な空気に援軍の数では無いことを感じ取っていた。

「今回の討論会は私の調査結果をふまえた援軍の有無についてです。」

出発前とは違いルートからは敵意とも思える感情が流れてきている。


「貴様、クロエ王女殿下に無礼だぞ。」

ローズは敵意をぶつけるルートを批難する。

「失礼、まだ話し合いの前でしたね、ですが私が敵意を持っていることは伝わったでしょう、私は今回の援軍に対して反対させてもらいます。」

「えっ、なぜですか!ルート子爵は援軍を送るための事前調査に向かったはずなのではないのですか?」

「それも含めて討論と致しましょう。

クルト陛下、討論を始めてよろしいでしょうか?」

ルートは遅れて入ってきたクルトに礼をする。

それにならいクロエもクルトに礼をしていた。


「うむ、ルート相手は女性である、威圧する事は控えるように。

あくまで言葉による討論を致せ。」

「失礼いたしました。それでは私の調査結果を報告することから始めましょう。

まず、今回の戦争の原因ですが、魔王国で崇められている主神を妾にし、あろうことかその主神の神殿にラニアン王国夫人廟などと刻んだ事によります。」

「なんだと!そのような真似をすれば魔王国は黙っていないだろ!少なくともおこなった者を差し出さねばなるまい。」

話を聞いた軍務大臣オスカルはあまりの内容に言葉を発していた。

「その通りにございます、ですが行った者がラニアン王国王太子ハーツなのですから、ここまでの戦争になったと言えます。」

「なに、王太子がそのような軽率な真似をしたのか・・・」

「クロエ王女、何か反論はございますか?」

ルートはクロエの方を向く・・・


「・・・たしかにその事は我が兄ハーツに責はございます、ですが我が国は魔王国に対して当初謝罪を申し入れ、刻んだ壁の修復を約束したのですが、魔王国がそれを受け入れる事無く、王都に侵攻してまいりました。」

「刻んだ壁は千年前に創造神がお創りになられた壁だそうです、そのような貴重な物をどうやって修復するつもりだったのですか?」

「・・・なぜ、そんな話まで。」

クロエは青ざめている、祭殿の壁が創造神が創った物だということは王家に伝わる話ではあるが広く知れ渡っている訳では無い。


「話を聞く限り魔王国が怒るのも無理は無いと感じられます、そして魔王国が求めるのは主犯の首、王太子ハーツの首を求めているのです、それを手に入れれば戦争は止めると聞いてまいりました。

我が国がこの戦争に加担する必要が無いと感じたのは以下の話からです。」

ジョージア王国の重鎮達からザワツキが起こる、どう考えても王太子ハーツに非があり、起こした戦争の規模を考えると最低でも廃嫡、戦争を収める為に首を差し出すのも致し方無い話に感じる。


「お待ちください。

たしかに兄ハーツの軽挙妄動な行為が戦争を引き起こしました、ですが一国の王太子の首を差し出せと言われ差し出せる国がありますか?

我が国はその非を認め、謝罪と賠償をするつもりでした、ですが魔王国はろくな話し合いも無く戦争に至ったのです。

その事からも魔王国は人族に攻め込む理由を探していたのでは無いかと推測されるのではないでしょうか?」

クロエは必死に悪い流れを変えようと努力していた・・・

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