第170話 出港

「そういえばジョージア王国の使節から連絡が無いな。」

「ハーツ殿下、両国間の移動はゴウに頼らねばならない状況にございます、このままゴウと縁が切れれば援軍という話にならないのでは無いかと。」

「それは無かろう、あの平民とて国の意向に逆らえまい、ジョージア王国が援軍を出すのはクロエが向こうで説得しているからだと使節も言っておった。

少々不満があろうとも従うしかあるまい。」

ハーツはあくまでも援軍が来るのはクロエのお陰であり、そこにゴウの存在は無い。


「そ、そうですな、自国の方針ならゴウも従うでしょう。

その際にわだかまりを解けば良いかと。」

「うむ、して使節達はどうしている?」

「ゴウと一緒にいた筈・・・」


その時汽笛が鳴る。


「ま、まさか!」

この音に聞き覚えのあったマッサは嫌な予感が走る。

「どうしたマッサさん?」

「プレザさん、この音はゴウさんの船の音です、出港しているのでは?」

「なんだと!」

プレザは外のテラスに駆けるとそこから見えるのは船が港から離れていく姿であった。


「どうしたプレザ?」

「ハーツ殿下、ゴウはジョージア王国に帰ったのかも知れません。」

「あの巨大な船の事か?たしかに出ていっておるな。

だがそれがどうしたのだ?

あの平民も国には逆らえぬと確認したばかりでは無いか。」

「使節団も一緒の可能性がございます。」

「なんだと!使節団にはもう少し歓待して良い印象を持ってもらいたかったのだが・・・

まあ良い、次に来る時は援軍を連れて来るのであろう。

プレザ、クロエも帰って来るかもしれんぞ。」

ハーツにとって援軍が来るならゴウも使節団も関係無い、さっさと帰って連れてきて来ることが望ましい。

それに愛する妹にも早く会いたいのだ、ハーツ自身は船の出港を悪く感じることは無かった・・・


「ゴウ様は援軍についてどう思いますか?」

ルートは帰国すれば報告しなければならない、その為にゴウの意見を重要視していた。

「見殺しにするのは少し気は引けるけど、いい印象は受けなかったからね、援軍を出すというなら船は動かすよ。」

「そうですか、わかりました、報告書を纏めたいので少し部屋にこもってもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ、ただ書き物をすると船酔いするかもしれませんので、酔い止めを後で持っていきます。」

「そんなゴウ様の手を煩わせる訳にはいきません。」

「構いませんよ、どうせ船の中、退屈ですからね。散歩がてらに持っていかしてもらいます。」

「ありがとうございます。」

ルートはゴウの優しい気持ちに感謝する、そしてゴウの優しさに欠片も気付く事の無かったラニアン王国にいい感情は一つも残されていないのであった。

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