第169話 城では
「ハーツ殿下にお目通りが叶い光栄にございます。」
マッサは城から兵士がやってきたうえ、あれよあれよとハーツの下に連れてこられた為にかなり緊張していた。
「世辞はいい、それでゴウという平民は何が不満かわかるか?」
「ゴウの不満にございますか、それはその・・・」
「はっきりと申せ!」
「実はゴウは損害賠償を訴えられておりまして、それに不満があったのでは無いかと。」
「損害賠償?訴えられ不満があるなら裁判ではっきりとさせればいいだけでは無いか。
まったく、裁判も知らぬのか?」
「いえ、そのような感じではございませんでした、ただ訴えた相手が大商人のヨクボさんでして、裁判を行えばゴウには厳しい物になると予想は出来ていたのですが・・・」
ハーツは側近のマッシュに確認の視線をおくる。
「ハーツ殿下、裁判と言っても相手によって変わる事がございます。
実際の所、貴族や地元の名士などと争えば何処の誰かもわからぬような者の意見は取り上げられることは無いでしょう。」
「ふむ、それは裁判にならぬというのもわからぬでは無いか。」
ハーツは裁判の現状を聞き、少し渋い表情を見せるが、貴族や名士が簡単に裁判に負けるようでは威信を守ることも出来ない、致し方無い、事と考える。
「はい、そこで私はゴウに妥協点を提案させてもらったのですが・・・」
「妥協点?それはどのようなものだ?」
「はい、ゴウが所有していた店の売上の一部をヨクボさんに提供する事でヨクボから譲歩を引き出す予定にございました。」
「賠償金を考えれば安くなるということだったんだな。」
「はい、ヨクボさんもその辺りの落とし所を考えていたと思われます。」
「特に問題は無さそうではあるな、まったくゴウという奴は何が不満なのだ。」
「ハーツ殿下、ゴウは他国の者にございます。
我が国の裁判に、それも理不尽に負けるような裁判に従ういわれは無いのではないでしょうか?」
プレザはゴウの立場になって考えていた、ゴウのジョージア王国での立場はわからないが、少なくとも使節と一緒に行動するぐらいには国からの信頼を得ているのだろう、それが他国に理不尽に搾取されるというのなら怒るのも無理の無い事に感じる。
「他国の者か・・・
たしかにそれをふまえれば悪手だったということだな。
ならば我が命により裁判の中止を言い渡そう、これで問題あるまい。」
「ハーツ殿下、一つ問題がございます。」
「商人よ、どうした?」
「はい、恐れながら、ゴウの協力により市井への食料提供が行われておりましたが、ゴウが店を撤去した事により市井への食料提供が行えなくなります。」
「なんだと!あれは商人が連合して他所から持ってきたと聞いていたぞ。」
「全てゴウからの提供でございます。」
「ならば、ゴウには勲章でも授けよう、商人よ平民に伝えておけ。」
「・・・連絡の手段がございません。」
「なに?」
「ゴウが用意していた連絡用の船も消失しております、私どもにゴウのもとに向かう手段がございません。
そもそもゴウに会う気が無いのならゴウの居る施設に入る事もできなくなるのではないかと考えております。」
「そういえば、橋頭堡も其奴の持ち物であったな・・・
忌々しい奴め!」
自分の考えていた戦略が崩れていくように感じていた。
「ハーツ殿下、ジョージア王国からの援軍はどうなるのでしょうか?」
話を聞いていたマッシュが思い当たる事を口にするのだが、その場にいる全員の表情を青くするのであった。
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