第165話 逃げるムドー

ムドーは道の駅に入ることも出来ず、町の中を逃げ惑っていた。

「クソっ!なんで俺がこんな目に合ってるんだ!」

幸い町に入り込んだ魔族は少ない、気配を消し物陰に隠れればやり過ごす事もできるだろう。

冒険者としてそれなりに活動してきたムドーだからこそ冷静に声を殺して逃げる事が出来ていた。


「おっ、此処に入るか。」

ムドーは避難しているのか人の気配も無い家に入る。

「ふぅ、これで一息つけるな。」

ムドーは台所に行き、住民が水瓶に汲んであった水を飲む。

そして、置いてあったパンを食べ腹を満たす。


「はぁ、暫く隠れていれば落ち着くか。」

ムドーは休む為にリビングに行くとそこには逃げる為に用意していたのか様々な物が散らかっていた。

「酷いものだ、少しは片付けろよ・・・おっ!」

ムドーが散らかった物を押しのけているとそこには金細工のアクセサリーがあった。

それ自体は高そうな物では無いのだが・・・

「この辺りは避難しているよな、こんなしょぼい家じゃなくてもっと金のある家なら・・・」

ムドーの考えは火事場泥棒なのだが、その事を注意するものはこの場にいない。


ムドーは別の家に避難という名目の下に金のありそうな家に移る。


「こりゃいいな!いくらでもあるじゃないか!」

次にムドーが入った家には高そうなアクセサリーだけではない、探せば金貨も出てくる。

「結構あるもんだな。

あとこれと・・・」

ムドーは持てるだけの物を持って出て行く。


「結構重い、一度家に置いておくか。」

ムドーの警戒心は既に魔族では無く人に向いていた、周囲の様子を確認しながら家に向かう。


港の方では悲鳴が聞こえてきたが、それはムドーにとって関係ないものであった。


「ふぅ、これで暫くは遊んで暮らせる・・・

いや、これだけじゃ足りないかもしれない。」

盗んだ物を自宅に置いたムドーは一息つくのだが、人の欲望は尽きる事が無い、盗んだ物を売った所でいつまでも豪遊出来る訳では無い、今ならまだ避難している家があるはず・・・

魔族が侵入してきた町を出歩けるのは冒険者の自分ぐらいなのでは無いのだろうか・・・


ムドーは再び魔族がうろつく町を出歩く事にするのであった。


「やべぇな、こりゃやめれねぇよ!」

何件か家を回り、金銭を集めていく、時節悲鳴が聞こえるがそれこそ町の中に魔族がまだいる証明でもある、ムドーはその声が聞こえるうちは大丈夫と考えていた・・・


ドン!


ムドーは再び自宅に帰るために角を曲がった所で何かに激突する。

「いてぇ、てめぇ何処に目をつけてんだ!」

ムドーが顔を上げるとそこには額に角の生えた魔族がいる。

「えっ・・・まさか、魔族か!なんで此処に、今までいなかったのに・・・」

これまで偶然会わなかっただけであり、盗みに夢中で警戒を怠っていたムドーの運が尽きていたのだ。


「くっ!こうなったら!」

ムドーは腰の剣を抜き斬りかかるのだが、ポケットまで金貨で一杯にしているムドーの動きは非常に遅く、戦える状態てではなかった。

魔族は冷静にムドーの剣を躱し、振り下ろされた剣を腕ごと斬り落とす。


「へっ、う、うでがぁぁぁ!!」

利き腕を斬り落とされたムドーは地面をのたうち回る。

「死ね。」

戦うチカラを奪われたムドーに魔族の止めが降る瞬間。


魔族の首が斬り落とされるのであった・・・

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