第161話 避難民

「この船に乗ればいいのか?」

「早く乗れよ!後ろがつかえているんだ!」

「押すなって!」

住民達は我先にと水上バスに乗る、乗船率が100%になると自動で出航し、次の水上バスと入れ替わる。


「早く!早く来てくれ!

もう後ろまで魔族が来ているんだ!」

「早くしろ!前は何をやってんだ!」

入れ替わる僅かな時間でも焦る者達からは長く感じる。

遂には海に飛び込み乗り込もうとする者も現れるが・・・

「乗れない!なんでだ!乗れないぞ!!」

正規の場所以外からの乗船は不可能であった。

「おい、誰か引き上げてくれよ!」

「うるさい、それどころじゃ無いんだぞ、勝手に飛び込んだんだ、自分でなんとかしろ!」

我先にと逃げる人達にとって彼を引き上げる余裕のある者はいなかった・・・


一方道の駅に逃げ込んだ者達は一杯になる施設の中、静かに時が過ぎるのを待っていたのだが・・・

「なぁ、なんで此処に沢山の食材があるんだ?」

「見てこれ、一つ銅貨1枚って書いてあるわ。」

「・・・俺、商人達が此処から食料を運び出しているのを見たことがある。

此処が商人達の倉庫なんじゃないか?」

「待って、ここ倉庫じゃないよね?どう見てもお店・・・」

「もしかして、商人達はここのオーナーから銅貨1枚で買ったものを自分の店で売っていたんじゃ・・・」

「銅貨1枚の物を少し動かしただけなのにあんなに恩着せがましく売っていたのか!」

「ここの持ち主は善意で俺達を助けると言っていた、本当に感謝すべきはあの人なんじゃないか?」

ここに来て初めてゴウに感謝する者が現れた・・・


「お母さん、お腹すいた・・・」

子供の一人がふと呟くと、他の子供達にも波及していく・・・

「お腹すいたよ、これ食べていい?」

道の駅内にはいろいろな食べ物がある、見慣れぬ物も多いが子供達の目には砂糖がまぶされ甘い匂いを出しているパンに目を引かれていた。


「だめだ!ここのオーナーは盗んだら追い出すと言っていたんだ、追い出されると魔族に殺されてしまうぞ!」

「でも、お腹すいたよ・・・」

「我慢しろ!」


「・・・盗まなければいいのよね?

値段も銅貨1枚って書いてるし。」

子供の母親の一人は購入すればいいと考える。

「誰かお店の人はいませんか?」

母親の言葉にラクーンがレジに現れる。

「ま、魔物がでたぞ!!」

急に現れたラクーンに魔物が出たと勘違いする者も現れる。


「待って、私の呼びかけで出てきたのよ、ねぇこのお店の関係者?」

「はい、私は主に仕える店員です。」

ラクーンはコクリと頷き答える。

「喋ったぞ!」

「魔物じゃないのか!」


「あの、このパンを買いたいのですけど、よろしいですか?」

「1つ銅貨1枚になります。」

「それじゃこれで。」

母親は子供が欲しがったパンを買う。

「ありがとうございます。」

ラクーンは深くおじぎをする、その姿を見た者達には恐怖はなかった。


「お母さん食べて良いの?」

「ええ、食べて良いわよ。」

子供は包装紙を剥がしパンにかぶりつく。


「おいしいーー♪

こんなにおいしいパン食べるの初めて!」

子供は目を輝かせて一気にパンを食い切る。


「俺も買おうかな・・・」

子供が美味しそうに食べる姿を見て、他の者達も購入するのだった。

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