第158話 町の混乱

ルートが町に出た時には既に住民達の混乱は始まっていた。

「敵だ敵が城壁の上に来てるぞ!」

「逃げろ!城に逃げるんだ!!」

「城は入れないらしい、教会に逃げ込むんだ!!」


町の中では避難しようとしているのだが逃げ場を探して右往左往している者で溢れていた。

「城は開放していないのですか?」

「はい、まだ町の中に入られた訳ではありませんので。」

「しかし、これ程混乱しているのです、城に一時収容するだけでも落ち着くのでは無いですか?」

「王太子殿下の許可無く収容する事は出来ないのです。」

案内役の兵士は苦しそうに答える。

「しかし、これはなんとかしないと・・・」



「ルートさん、無事ですか!」

俺は町の騒ぎを遠目で見たので様子を見に来たのだが、ルートの姿を見つけて声をかける。

「ゴウ様!どうして此処に!」

「町の様子が騒がしかったから様子を見に来たんだけど、何かあったの?」

「現在城壁の上まで敵が来ているのです、それで住民達が混乱していまして。」


「たしかに敵に城壁の上まで来られては気が気でないでしょう、ルートさん私の住む埠頭は誰にも攻め込まれる事はありません、住民達の避難場所として開放しますから誘導してもらえませんか?

それとそこにある店も私のチカラで作った場所ですので誰からも攻撃をされません、そこにも人に入ってもらえば幾らかの人を助ける事はできると思います。」

「ゴウ様、よろしいのですか?

住む場所まで平民が来ることになりますが・・・」

「平民も何も私も平民ですからね、それに困った時はお互い様です。

それと・・・」

俺は水上バスを十台喚び出す。

「埠頭までの移動はこれを使ってください、今日に限り何も無くても入れるようにしています。」

「わかりました、しかし、ここの者達が安全を信じるかどうか・・・」

「そうですね、じゃあこうしましょうか。

少し来てください。」

俺は町に作っている道の駅までやってくる。


「住民達よ、よく聞け!

この建物は絶対に安全だ!この中にいれば助かるぞ!」

「お前何を言ってるんだ?」

「今はそれどころじゃ無い、城に行かないと!」

「嘘だと思うならこの線より向こうに攻撃を加えてみろ!

いや、ルートさん剣で斬り掛かってください。」

「わかりました。」

ルートは迷うこと無く剣で斬ろうとするがその剣は見えない壁に阻まれ空中で静止していた。


「おい、なんだあれは?」

「演技じゃないのか?」

「信じれないなら他の人もやってください。

そうだ、石を投げてみましょう。」

俺は足元にあった石を拾い投げるのだが当然の如く見えない壁に当たり地面に落ちる。


「これって、本当に安全なのか・・・」

住民にざわつきが生まれる。


「信じれる人だけ入ってください、ただし中にある物を盗んだり、他者に暴力を振るえば中から追い出されますので注意してください。

それと同じように安全な場所が向こうにもあります、移動にはあそこに止めてある船を使うしかありませんがこの施設に入りきれなかった場合もあると思うのでその場合は船に乗り埠頭に向かってください。」

「そんなの信じれるか!」

「なら信じなくても構いません、私は善意で助けようとしているだけで、絶対に助けたい訳ではありません。

信じた人だけが施設に、埠頭に入ってください。

それでは私は埠頭でお待ちしています。」

俺はそれ以上言うことなく水上バスに乗り込む、それにならうようにルートも乗って来ていた。


「ゴウ様、お見事にございます、あの者達に救いの道を示したのですね。」

「信じる、信じないは押し問答になるからね、あれだけの人の前でデモンストレーションをしたんだから、助かりたいかどうかは自分達の判断に任せるよ。」

俺とルート達を乗せた水上バスは埠頭に帰ったのだった。

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