第87話 化粧品と石鹸
「ミユキさん、これってそんなに良いものなの?」
「ゴウさんにはわからないかも知れませんけど、欲しがる人は多いと思いますよ。」
駅に呼び出せる店舗にドラッグストアが出来ていたので俺としてはこれで腹を壊しても大丈夫と笑っていたのだが、ミユキは化粧品に目の色を変えていた。
「まあ女性には必需品というよね。」
「最近は男性も使っているんですよ、ゴウさんも肌ケアしないんですか?」
「俺はいいかな、まあボディソープとかが手に入るのは良いかも、俺の愛用品もあるし。」
「私もいつも使っていた物が会って良かったです。
・・・ゴウさん、このお店も開放するんですか?」
「薬に対して責任が持てないからね、基本的に俺達だけが使うかな、まあ多少贈呈品として薬以外なら贈っても良いと思うけど。」
ドラッグストアはジョア駅の中で乗り口から離れた場所に作り、立入禁止に設定していた。
ちなみに現在ジョア駅では鉄道、売店は開放して運用を始めている。
「これが出回れば大混乱になりますよ。」
「ミユキさんも大袈裟だな。」
「ゴウさん、ミユキさんが正しいですよ、そもそも石鹸自体が結構貴重なんです、一番安い固形石鹸すら使ってない人がほとんどですよ。」
俺とミユキの会話にコウタも入ってくる。
「そんなにかい?田舎ならともかく王都でもそんな感じだとは・・・」
「ええ、衛生面はかなり遅れていると言えますね。」
「うーん、それならマルコに頼んで石鹸を安く販売するか。」
「安くですか?石鹸を売り出せば大儲けできますよ!」
「コウタくん、石鹸が有るのと無いのでは病気の流行りに大きな差が出るんだよ。
本当なら作り方を教えれたらいいんだけど、俺は覚えてないからね、今出来ることは呼び出せる石鹸を格安で販売して・・・」
俺はどうやればみんなが使うようになるか考える、安くとも使わない人は使わないだろう。
「コウタくん、君は教会で神父をしてたよね?
回復魔法で治療してたとか。」
「はい、そうです。
この世界の教会では治療院みたいな役割をしている部分があるんです。」
「それならこの石鹸を大量に寄付するから教会で使うように働きかけてくれないかな?」
「寄付ですか?」
「お金は良いよ、まずは使う事を覚えてほしいんだ。」
「わかりました、僕にどれだけの事が出来るかわかりませんが司祭に話してみます。」
「お願いするよ。」
コウタは石鹸を受け取り、一度教会に戻る。
「コウタさん、教会を出ていったい何処に行っていたのですか?」
「タムル司祭、申し訳ありません、同郷の方が王都に来たので会いに行ってました。
今後そちらで生活するようになると思いますので近々部屋を出ようと思います。」
「・・・回復魔法の使い手が教会から出て暮らすのは少々惜しいのですが。
仕方ないでしょう、ですがお勤めの方はしっかりとお願いしますよ。」
「はい、それとこちらは同郷の方からの寄付になります。」
「寄付ですか?
彼の者に祝福あらんことを。
それでこれは?」
タムルは雑に祈りの言葉を唱える。
「石鹸です、教会で使ってほしいと多くを頂いてきました。」
コウタは袋一杯の石鹸を見せる。
「これほどですか?」
「いえ、もっとあるのですが自分一人で運べないのでどうか人を集めてくれませんか?」
「おお、それは素晴らしい、すぐに人を用意しましょう。」
「ありがとうございます。」
タムルの言葉の通り荷車と人が集められ大量の石鹸が運び込まれる事になる。
「くく、これは素晴らしい!素晴らしいですな!これだけあれば一財産になる!
この私が司教に上がるのも時間の問題です!」
タムルは一人歓喜の声を上げる、コウタの願いなど無かった事にされ、教会に・・・司祭タムルに届けられた寄付として処理されるのであった・・・
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