第82話 アヤカの母親

タイラー伯爵は妻のユメカを連れて王都ジョアにやって来ていた。

「これって東京駅よね・・・」

ユメカは駅を見て固まっている、鉄道自体見慣れた物であるが東京駅がこの場にある事は違和感しか無い、だが確実に日本人が此処にいるということがハッキリとわかる。


「タイラー様!此処にアヤカがいるかも知れません!」

「ユメカ、落ち着きなさい、この駅には国賓となられた者が滞在しているのだ、失礼な事が合ってはいけない、まずは使者を出して面会を取り付けよう。

大丈夫だ、必ず私の手でアヤカを探してみせる。」

タイラーは不安そうな表情を見せるユメカを優しく抱きしめる。

「タイラー様・・・

そうですね、落ち着いて対応しないと。」

これまでも子供を探しているというタイラー伯爵家に金目的で近付いて来る者は多数いたのだ、ユメカとしても騙される訳にはいかないと気を引き締めるのであった。


「タイラー伯爵夫妻が面会を求めている?」

「そうなんだ、ゴウ会ってもらえないか?」

マルコ経由でタイラー伯爵家から面会が求められていた、どうやらアレス伯爵家とタイラー伯爵家は比較的近隣という事もあり、親しい関係を築いているらしく、無下に断る訳にもいかない相手らしい。

「わかったよ、会うから連れてきてくれ。」

「助かるよ、向こうに連絡するからな。」

こうしてタイラー伯爵家が遣ってくる事になるのだが・・・


「アヤカ!!」

会いに来るなりタイラー伯爵婦人がアヤカに駆け寄り抱き締める。

「お母さん!!」

アヤカも駆けて来たタイラー伯爵婦人に抱き着く。


「・・・え、えーと、タイラー伯爵、こちらの方はタイラー伯爵婦人なのですよね?」

「ああ、私の妻のユメカだ。

ゴウ殿、ユメカの娘アヤカがこちらにいる理由を教えてもらえないか?」

「わかりました。」

俺はこれまで合った事を話す、自分が会った時には既に奴隷となっていて、購入し、現在庇護している事を・・・


「なるほど、奴隷にされてしまっていたか・・・」

タイラーは眉間にシワを寄せ頭を悩ませる、ユメカの娘としてアヤカを引き取るつもりでいたのだが、奴隷を伯爵令嬢として迎え入れる事に抵抗がある、こんな事は前代未聞なのだ、元々身元のわからないユメカを妻に迎え入れた事も家臣達の動揺を招いている、これ以上の動揺は好ましくない。

「タイラー様、アヤカを引き取ってくれますよね?」

「う、うむぅ・・・」

タイラーは安易に同意出来ない・・・


「お母さんこちらの方は?」

「アヤカ今はその話は・・・」

ユメカは気不味そうに答える。

「・・・お母さん、答えて。」

その雰囲気から嫌な予感がしているのかアヤカはユメカから一歩下がり不安そうな表情を見せてた。

「この方はこちらに来た時に良くしてくれた方で・・・」

「そういえば伯爵夫妻が来訪してくるってマルコさんが・・・」

「アヤカ違うの!話を聞いて!」

「聞きたくない!お母さんはお父さんの事はどうするの!」

「アヤカ!お父さんとはもう会えないから・・・」

「いや!!なんでそんな事をいうの!」

アヤカは首を大きく振りユメカの言葉を否定する。


「アヤカちゃん、落ち着いて。

ユメカさん、タイラー伯爵、どうやら互いに事情があるようですので、一度お引き取り願えますか?」

「う、うむ、そうだな、ユメカ今日は一度帰ろう。」

「いや!アヤカ、お願い一緒に行きましょう!」

「いや!お母さんなんて知らない!!」

アヤカは俺にしがみついて大きな涙を流している。


「アヤカちゃん・・・

ユメカさん、今は互いに感情的になっているようです、一度時間をあけましょう。」

「貴方はなんの権利がらあって私とアヤカ・・・母娘の仲を裂くと言うの!」

「ユメカ落ち着きなさい、権利と言うならゴウ殿はアヤカを所有する権利がある。」

「所有って・・・アヤカは物じゃないのよ!」

日本人として、母親としては当然の感情なのだが、この世界では奴隷制がある、奴隷は物として扱われ、当然その権利は購入者のゴウが所有することになる。

ユメカも知識としてはあるのだが、それでも母親としては認められない物であった・・・

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