第52話 水島ユメカ

タイラー伯爵の妻となる事を承諾したユメカはアヤカの母であった。


異世界転移した直後、いなくなった娘アヤカを探して転移して辿り着いた町タラを探し回っていた。

「おい、何を騒いでいる。」

タイラーは視察の最中、必死の形相で人を探している女性を見つけて声をかける。


「アヤカを!娘を知りませんか!歳は11歳、服は水色のワンピースで髪は肩ぐらいまでなんです。」

「落ち着きなさい、おい、迷い人の報告はあるか?」

タイラーは護衛についている騎士に確認する。


「いえ、聞き及んでおりません、自警団にも確認を取りますか?」

「連絡しなさい、これ程まで探しているんだ、手を貸すぐらい当然であろう。」

タイラーの命令に従い、騎士の一人が走り出す。


「お嬢さん、今確認に行かせている。

確認が取れたら連絡をするが何処に住んでいる?」

「ありがとうございます!!

・・・えっ、あっ、その住んでいないというか、今日初めて来たと言うか・・・」

ユメカは初めて自分に行き先の無い事を思い出す。

「旅人か?」

「いえ、そういう訳では無く・・・」

ユメカはこれまであった事を正直に話す。


「なるほど、ヒホンからの訪問者の話に似ているが、その見慣れぬ服と言い、嘘と断じるのは些か早計に思える、ユメカ殿そなたが良ければ私の所に滞在すると良い。」

「そんな悪いです、見ず知らずの方にそこまでお世話になるわけには・・・」

「かまわん、これでもここの領主をしている、人一人養うぐらい雑作のないことだ。」

「領主様ですか!!誠に失礼致しました!!」

ユメカは深く頭を下げる。

「気にする事は無い、それにそなたのような女性が行き場も無く彷徨くと良からぬ真似をする者も出てくる、私としてはそのような者を町から出したくないからな。」

タイラーの気遣いということはユメカにもよくわかる。

「ありがとうございます、お慈悲に感謝致します。」

その日からユメカはタイラーの世話になるのであった。


その夜、報告がタイラーの下に上がってくるのだが・・・

「アヤカという娘はいないのか?」

「はい、奴隷商にも売りに出ていないとの事にございます。」

「彼女が嘘をついているとは思えんな。

引き続き捜査を頼む。」

「はっ!」

残念な結果ではあるがユメカに伝えなければならない、タイラーはユメカの元に足を運ぶのだが・・・


そこには屋敷の侍女の手により見違える程の美しさのユメカがいた。


ユメカは30を越えているものの、元々美人であった事、そして日本人特有の童顔に加え、スキンケアを充分していた事もあり、一児の母とは思えぬ美しさを持っていた。


それを侍女が磨き上げる事により出会った時の汚れた姿とは別の美しい姿に変貌していたのだ。


「タイラー様、どうかなされましたか?」

ユメカの姿を見て固まるタイラーに不安そうな表情を浮かべみつめる。


「あっ、いや失礼、ユメカさんには残念な報せがあります。」

「えっ・・・」

タイラーの言葉に泣きそうになっているユメカがいる、それを見るとタイラーは心が締め付けられる事を感じていた。

「探されていたアヤカさんですが現在見つける事が出来ておりません。」

「そんな!!アヤカ・・・」

ユメカは泣き崩れる。


「大丈夫です!必ずこの私が見つけ出します!」

タイラーは泣き崩れるユメカを抱き締め約束する。

「タイラー様・・・」

タイラーの胸の中で見つめてくるユメカにタイラーは心を奪われてしまっていた。

「ユメカさん、私を信じてください、これでもそれなりの立場にいるんです、ユメカさんは吉報を屋敷で待っていてください。」

「タイラー様、どうかアヤカをお願いします。」

ユメカとしても突如来た異世界である、頼れる人もいない状況でタイラーの申し出は代え難い物であった。


アヤカが見つかるまではと心に決めタイラーの下で過ごすのであった・・・

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