第38話 王家

「これが噂のお菓子ですか?」

クルトは献上されたお菓子を持って娘アリサのもとに来ていた。

「うむ、お前が食べたいと言っておったからな、アレス伯に頼み持って来てもらったのだ。」

「お父様、それはやり過ぎにございます、王と云うものは安易に家臣に頼んではなりません、日にちはかかれど人を送り購入すれば良いだけではないですか。」

「そうなのだが、あまりの人集りに購入も難しいと聞いてな、たまたま城にアレス伯が来ておったので頼んだだけだ。

別段無理に頼んだ訳では無い。」

「もう・・・でも、お気持ちは嬉しく思います。

お父様も一緒にいただきましょう。」

「そうだな、美味しいと評判の物だ、市井を知るにも良いだろう。」

クルトが手を挙げると毒見の済んだタルトとウェハースが用意される。


「ケーキに栗でしょつか?でも中の黒いところは?」

栗をアンコで包み、そのアンコをスポンジケーキでくるんだタルトはアリサの目には不思議に写っていた。

「料理長これはなんなのだ?」

くるは料理を運んで来た料理長に質問する。


「豆を砂糖で煮た物と思いますが、如何せん詳しい調理方法まではまだわかりませぬ。」

「料理長も知らぬ菓子か!」

「はっ、自分の浅学を恥じるばかりにございます。」

「恥じる事は無い、世界は広いのだ、まだまだ知らぬ事もあろう、今後学ぶが良い。」

「はっ、勿体無いお言葉にございます。」


「お父様、食べてみましょう。

料理長、良いんですよね?」

「はい、お召し上がりください。」

料理長は一歩下がり、父娘二人はタルトから食する・・・


「美味しい、黒い部分の甘さとケーキのバランス、そしてこの柚子の風味でしょうか、爽やかな後味・・・

う〜ん、美味しいです。」

アリサは一口食べて嬉しそうに微笑んでいた。

「ふむ、ワシには少し甘さが強いがだが悪くないな。」

クルトとしてはそこまで甘い物を好む訳では無いがそれでも美味しく感じるのであった。


「市井の民はこれを普段から食べているのですか!」

「そのようにございます、とはいえ購入希望者が多く、容易く手に入らないのが実情の様ですが。」

「そんな・・・いつの間に市井のお菓子がここまで美味しくなっているなんて、お父様王都のお菓子事情も良くしましょう。」

「しかし、だな簡単に味を良くするなど難しい事であろう・・・

ふむ、砂糖で煮詰めているといったな、アレス領では砂糖は取れていないと記憶していたが?」

「輸入でしょうか?」

「しかし、それなら市井の者が食べれる程に値段を下げる事は出来まい、いやそれより何故値段を下げてまで売る必要がある?」

クルトは値段の低さから不審な物を感じる。


「アレス伯爵の子息、確かローグとか言っておったな、少々身辺を探らせてみるか。」

ローグは謁見の栄誉を得ることは出来たが、国王クルトからあらぬ疑惑をかけられるという不名誉も同時に受けるのであった・・・

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