バルトラの成長Ⅲ

 ~お見合いの話から2日後、9の刻~



 お見合いの日当日。


 バルトラは、自身の部屋で侍女であるライラと共に正装を選んでいた。

 理由はもちろん、相手に失礼の無いようにするためである。


「ついに来ましたね!バルトラ様!

 お相手の方は確か……、同じ公爵家のクルス家の御令嬢でしたよね?」


 バルトラのネクタイを締めながら、ライラは確認する。


「そう。ま、お見合いはするけど了承はしないから」

「えぇー!なんでですか?!

 クルス家と言えば侯爵家ともパイプがある名家ですよ!?将来公爵家を継がれる予定なら、とても良い縁談じゃないですか!」


 クルス家は代々魔導学園の要職を務めており、魔導都市では最高位に近い侯爵家とのつながりもある。


 にも関わらずこの男は、まるで興味を示していない。

 理由はもちろん、大好きな魔導のためである。

「そういわれてもなー。

 俺は戦闘士になりたいから公爵を継がないかもしれないし。第一、今回のお見合いで俺が欲しいのはアダマンタイト鉱石だから」


(ほんっと、他人にはちっとも興味を向けませんよねー)

 あっけらかんと言ってのけるバルトラに、彼女は心の中でため息をつく。



 そしてなんだかんだと話していると、集合時刻である10の刻が近づいてきた。



「ささ、急いで居間に行きましょ!ぜぇったいに失礼のないようにお願いしますよ!!」

「はいはい分かってるよ。テキトーに話をして終わるから」


 バルトラは、実にやる気のなさそうな返事をして居間へ向かった。

(心配だなぁ……)





 ~10の刻、公爵邸の居間にて~




 バルトラが居間について少し経ったころ。

 居間の扉が開き、恰幅の良い男性が入ってきた。


「よく来てくださいましたな、クルス伯爵」

「いやいやこちらこそ。ご無沙汰しておりますぞグリスト殿」


 何度かのお見合いを経験しているバルトラは、もちろん様々な爵位の貴族を見てきたが、その中にいてもあまり目立たない。


 そんな感想だった。

 だが、そこである違和感を覚える。


(この人がクルス伯爵。

 至って普通、って言う印象だけど………

 ん?肝心のお嬢様がいない……。どこにいるんだ?)



 エランとクルス伯爵の社交辞令を耳にしながら、伯爵の開けた扉を再度見ても、誰かが現れる様子はない。

 通常であれば、お見合い相手は父親と一緒に連れられてくることが毎回のことだったのが、今回はいないのだ。



「立ち話もなんですから、私の部屋に移動して話しませんかな?」

「それは良いですなぁ!ここは当事者たちに任せますか!」


 そんなことを考えているうちに社交辞令が終わり、エランの部屋に行くことになった2人は居間を出ていく。



 程なくして、二人が出ていった扉からジェントルな服を着た男性が入ってきた。


 男性はバルトラを見るなり一礼して、自己紹介を始める。

「お初にお目にかかります、バルトラ・フォウ・グリスト様。わたくしめはクルス伯爵家の筆頭執事、セオドアと申します。

 以後お見知りおきを」


(筆頭執事。うちではあんま聞かないな)


「よろしくお願いします。

 セオドアさん、で大丈夫かな?」

「かまいませんよ」



 セオドアはニコニコとした笑みを絶やさないが、隙を見せない姿勢を崩しておらず、優秀な執事であることは手に取るように感じられた。


(さすがは公爵家の上位、だな)


 その挨拶からさらに数分。

 執事は来たが肝心の公爵令嬢が来ないため、バルトラはついに痺れを切らして質問する。


「えっとー。セオドアさん。

 クルス伯爵のお嬢様はどちらにいらっしゃるのかな?」


 バルトラの少し怒気を含めた言い方に、セオドアは動じることなく頭を下げて言った。


「申し訳ございません、バルトラ様。

 メリー様は現在グリスト公爵邸の庭を探索されていますので、もう少々お時間がかかるかと思われます」 


(庭の探索……?なにをしてるんだ??)

「に、庭の探索?」


 公爵令嬢の行動に理解が追いつかないでいると、赤髪の少女が扉を勢いよく開けて入って来た。


「セオドア!グリスト邸は広いですけれど、特に何もなかったですわね!あんまりおもしろくなかったですわ!」


(な、なんだ?!この失礼なお嬢さんは?!)


 突然の出来事でまたもや理解が追いつかないが、なんとか気を取り直し、最大限の丁寧を持ってバルトラは挨拶する。


「や、やぁ。君がメリー・バル・クルス公爵令嬢でございますか?」

「えぇ!そうですわ!そういうあなたは、バルトラ・フォウ・グリスト様ですわね?」

「あ、あぁ……」

「ふーん……」 ボフッ!


((これは!))



 メリーはじろじろとバルトラの顔を見ると、はぁーとため息をついた。



「セオドア、こんなぱっとしない男が公爵の嫡男なんですの?わたくし幻滅してしまいましたわ!もう帰ります!」



 有無を言わせない早口でそう言い切った彼女はドーン!とドアを開け、バルトラ邸の近くに止めている魔導車に帰っていった。


「な、なんだあいつは!?」


 思わずそう叫んでしまった。


(俺の顔を見るなりいきなりぱっとしないとか言いやがって!そんなに悪くないだろ俺の顔!)


 心の中で憤慨していると、セオドアは何事もなかったように丁寧にお辞儀をする。


「これにてお見合いを終了させていただきます。良い結果となることを祈っておりますぞ」


 そう言ったあと、セオドア達執事も扉を開け出ていった。



(はぁぁ?!ぜってぇいい結果になんてならないだろ!?)






 そう思っている一方、ライラやセオドア達は……



(いやはや、メリー様が部屋に来てバルトラ様のお顔を見るとは……、よほど興味が沸いたのですな)

(メリー様扉開けるとき顔真っ赤だったじゃん!あんなんツンデレ確定だよ!

 なんで気づかないのうちの坊ちゃんは!)




 彼女の本音は、バルトラ以外には理解されていたようである。




(な、なななんですの!?あのイケメン!わたくしのタイプすぎますわ!

 でっ、でもどうしましょう……。

 どうしたら良いかわからずにすぐ出てきてしまいましたわ……)

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